PRESENT 10








近頃、なにかとエースと連絡を取り合っている。
ある業物が裏に流れていると、噂に聞いたからだ。
黒刀秋水。
昔、さる伝説の剣士が持っていたという名刀である。


「ただのコレクションじゃねぇんだろ?」
今日のコールでエースにそう訊かれた。なかなか勘のいい男だ。
将来、俺が身の回りをすべて処分して、剣の道を歩もうとしていることをまるで見透かしているような口ぶりである。
今まで誰にも話したことはない。知ったらおふくろや執事には嘆かれるだろうと思う。想像するだけで気が滅入る。
親父はなんというか。さぞや呆れ返るだろうが、もしかすると大笑いされる可能性もある。親父はああ見えて底知れない何かを持っている男だ。
ふと、コックのことが頭をよぎった。
俺が黙ると、「どうした?思案中か?」、そうエースは笑い、ずっと待ち望んだ言葉を口にした。
「あれが手に入った」
黒刀秋水を入手したと朗報をもたらした。
「鑑定がすんだらすぐに送る。半月だけ待て。来月にはお前の手元に届く」
「いろいろと手間をかけた。金はすぐに支払う。振り込むか?」
「金のことはお前にまかせる。できれば俺が出向いてお前んちでゆっくりしてぇけど、何かと忙しくて身動きがとれん」
エースが忙しいのは知っている。いつも惑星間を飛び回って、こっちでゆっくりしている時間はなさそうだ。
少しばかり仕事の話をした後、エースが話題を変えた。
「やっぱりアンドロイドの製造が中止されたな。表向きは産業用ロボットの推進と生産増加、そして家庭内ロボットの機能優先。フリーエネルギーだからといって、政府は本音と建前の使い方が露骨だ」
人間と変わらぬ外見。そして人間以上の能力。無許可な製造と裏で行なわれる改造。やつらは犯罪に用いられることも多い。
既存の物は認めるが、ロボットの動力切替の際は今までのデータ移行ができないのが現状だ。ナミの言ったとおりだった。これには技術的な問題も含まれているようだ。他のものが優先で、ロボットのデータに関しては、ただ単に本体を初期化してすませる方針らしい。

「サンジは元気か?」
無駄に元気だ。俺がそう返事すると、
「また美味い紅茶を飲ませてくれと伝えといてくれるか。そうだ。ゾロコちゃんにもよろしくな」
とって付けたようにいって笑った。奴は知っていて言うから性質が悪い。




その年の夏。
俺はコックと一緒に旅行にいった。
いつも鍛錬と昼寝ばかりしてるように思われているが、これでも俺は意外と忙しく、ここのところまともに休みをとっていない。
話は少し戻る。2ヶ月くらい前に、俺は旧エネルギー工場をひとつ買い取った。その規模は小さく、切替が終わればもう需要がなくなるのはわかっていた。いずれは原料さえ手に入らなくなって、工場も稼動しなくなる。いまさら旧エネルギーか、どういう考えかと、他の役員達は反対したが、もちろん事後承諾だ。
それについてコックは何も語らず、
「旅行にでもいくか?会社もどうにか落ち着いたしな。てめぇにしちゃ、珍しくよく働いた」
そういって今回の旅行を手配した。



一面、どこまでも砂の海だ。
この星にまだこんな場所が残ってたのか、不思議なくらい現実離れした光景が広がっている。だが、現実としてはリゾート用に保全された場所だ。この星では人の手を用いて自然に近いものを作っている。

砂漠のど真ん中にある大きなオアシス。そのオアシス全体がリゾート地だった。
落ち着いた雰囲気の1戸建コテージ。室内は絞られた灯りと豪華な装飾、まるでアラビアンナイトのようだ。こういうのが好みなのか、コックはムードを非常に重視する。だが、正直言って俺はどうでもいい。
一枚の毛布と寝る場所。出来れば屋根はあったほうが夜露はしのげるが、それと酒に食い物があれば充分ではないかと考えている。
天蓋付の大きなベッドだ。大人が5〜6人は余裕で寝られるくらいでかい。手の込んでそうな刺繍が施されたベッドカバー。王侯貴族にでもなった気分だ。
到着した日、砂嵐が吹き荒れていた。視界が悪く、何も見えない状態だった。
「昨日から始まったらしい。おそらく明日には止むだろうって話だ。ちっとばかり面倒だが、引きかえして別にホテルを取ろうと思う」
コックがそういった。到着前の話である。専用機だから、引きかえしたからと誰に迷惑をかけるわけじゃないが、俺は予定通りことを進めることを選んだ。
「砂嵐なら、ちょうどアレが出来る。引きかえすこともねぇ」


細かい砂が風とともに吹き荒れる。そんな中、俺とコックは一人乗用のエアジェットをもちいて速さを競った。
視界もかなり悪く、ゴーグルがなければとても目が開いてられないくらい激しい嵐だ。砂山が動き、生き物のように形を変える。
砂の動きを読んで、流れに逆らわないよう風に乗る。操作を誤れば転倒して遅れをとるからお互い必死だ。たかが遊びなのに、何をムキになってやってるんだと自問自答しながら砂の波を泳いだ。
コックは3回転がり、砂にダイブするよう顔を突っ込んだ。俺が転んだのは1回だが、頭から突っ込んだせいか逆さになり、腰まで砂に埋まってなかなか出られず往生した。遊びとはいえ命がけである。こういう時に限ってコックは手助けをしない。なんとか自力で脱出したが、運が悪けりゃうっかり死ぬところだった。
2ターンした後、勝負の決着がつかないまま砂嵐がやんだ。
夕刻。砂漠にひんやりと乾いた風が吹いた。大地は波打ち模様を描き、落ちかけた太陽が砂を煉瓦色に染める。
群青色の空には、早くも白い三日月が浮かんでいた。





その翌日の夕方のことだ。
食事の後、何故か眩暈がした。
妙に身体が落ち着かず、内蔵があるべき位置にないような、バラバラになったような感じに襲われた。
コックがそんな俺を見て声をかけた。
「どうした?」
「何でもねぇ。もう寝る」

ベッドに入った後も背中から冷水を浴びせられたような悪寒が続き、それが治まると今度は身体中から熱が噴き出た。
夢か現実かわからない状態で、またコックが声をかけてきた。首に触れた手がひんやり冷たく感じる。
大丈夫だ。こんなのは一晩寝れば治るんだから、そんなツラをするな。だが、何故か上手く言葉が出ない。
目の前のコックが次第にぼやけ、治まらない眩暈に目蓋を閉じた。地中深く、どこまでも深く、燃え滾る核に吸い込まれるよう落ちていった。





そこで俺は子供だった。
まだ幼く、傍には執事がいる。
執事がポットを手に、紅茶をカップに注いだ。細い注ぎ口から流れるオレンジ色の紅茶。
俺が飲もうと手を出すと、
「もう少し大きくなってからにしましょう。こちらは奥様用ですから。さあ、お坊ちゃまにはミルクをご用意しました。お熱いから気をつけてお飲みください。ふうふうしてくださいね」
そういって、渡されたミルクは猛烈に熱かった。
カップの底からぼこぼこと沸きあがり、いくらふうふうしてもとても飲めたもんじゃない。喉が渇いている俺はそれでも飲もうとしたが、熱すぎてカップに口を付けることさえ出来なかった。
「熱い」
執事に訴えると、「おや。火傷でもしましたか?」、不思議そうに訊いた。別に火傷はしていない。こんなにも喉が渇いてるのに、熱くて飲めないことに苛立ち、「熱い」とまた言うと、何故か悲しそうな表情をして俺の口に何かを入れた。
氷の欠片だ。
体温ですぐに解けてしまうほど小さな氷。
気がつくと、目の前の皿は透明な氷の山でいっぱいだった。思わず手を伸ばして取ろうとしたらするりと氷が逃げた。何度掴んでもつるつる逃げる。
ようやくこれは夢なのだと気づいた。
だが気づいても夢から覚めず、俺は氷のひとつも口に入れることができない。
すると、また小さな氷が口に入ってきた。
目が霞んでよく見えないが、それは執事でもおふくろでもなく、もちろん親父じゃなくて、

「てめぇに万が一のことがあったら、俺が仇を取ってやる。たぬき汁にするか?きっとクソうめぇぞ」

まるでコックのように、口元がニヤリと笑った。
たぬき汁なんて熱そうなものはいらん。食欲もないし、それよりもっと氷をよこせと言いたかったが、喉から出るのは熱い息ばかりだ。
唇に氷が触れる。小さな欠片は口の中で解けて水になり、それを嚥下して、何度目かで俺はまた眠りに落ちた。





コトコト小さな音に目が覚めた。
どのくらい寝ていたのかさっぱりわからない。
音のするほうに首を向けると、そこにはたぬきがいた。たぬきが、たぬきのくせにテーブルの上で何かを作っている。何でたぬきが此処にいるのか。何を作っているのか。不思議に思い眺めていると、視線に気づいたのか、振り返って俺に問いかけた。

「あ。目を覚ましたのか?気分はどうだ?」

ピンク色の帽子をかぶり、青い鼻をしたたぬきだった。

「すごい熱だったんだぞ。しばらく安静にしてなきゃダメだ」

まるで医者のような口ぶりだ。
そこへコックが入ってきた。俺を見てから、
「ようやくお目覚めか。お前、たぬき汁になんなくて良かったな」
たぬきにニヤッと笑いかけた。
「た、た、たたたた、たぬきじゃねえ!俺はトナカイだっ!」
そう言いつつ、たぬきは海老のようにすすすと後ずさり、怯えたような仕草でテーブルの影に隠れた。小さいからすっぽりだ。



「ケスチア?」
起き上がろうとするのをたぬきに押し止められた。まだ身体がふらふらする。諦めてまたベッドに横になった。
「砂の中に棲んでいる小さな虫だ。感染すると腹に湿疹みたいなものが出来る。それが感染した証拠なんだ。もうほとんど絶滅してるとみられているが、この前みたいな大きな砂嵐でどこからか飛んできたんだろうと思う。ちゃんと処置すれば心配ないが、放っておくと100%死に至る。昔は白薄荷の葉を潰して塗るくらいしか防ぐ手立てはなかったから、かなり恐れられていて、砂漠の民は絶対砂の中には入らなかったんだ」
普通は滅多に感染しないのに、わざわざ砂の中に埋まって遊んでたのか、と訊かれた。
別に好きで埋まったわけじゃない。
「腹巻しねぇからだ。だから腹なんか刺されるんだ」
コックが余計な口出しをした。
「夜なべして編んでくれた真心腹巻があったろうが。年寄りの好意を無にするからバチが当たったんだ」
バチだバチ。バチが当たったに違いねぇと繰り返す、小憎らしいコックの顔面に枕を投げつけたら、ぐらりと身体が揺れて天井が回った。かなり体力が落ちていた。
「さっきまで意識不明だったんだぞ!大人しくしてなきゃダメじゃないか!」
真剣な表情で怒鳴るたぬきに訊ねた。
「おめぇは医者か?」

たぬきの名前はトニー・トニー・チョッパーという。
コックがいうには「これでも名医らしい」。
「今は薬が効いてるが、夜にはまた熱がでる。最初は午前中だけ熱が下がって、午後はまた熱が上がる。その熱は無理に下げないほうがいいんだ。発熱してる時期はだんだん短くなるから大丈夫だ。早ければ後2週間くらいで完治する。それまでの辛抱だから」
2週間と聞いて俺はうんざりした。旅行先で寝込むのほど嫌なことはない。
「どうにかならねぇのか?2週間もベッド暮らしなんざうんざりだ」
たぬき医者に文句を言った。
「確かに即効性のある薬や治療法はたくさんあるが、今回は身体に抗体をつけておいたほうがいいと思う。ケスチアに罹って完治した場合、万能ワクチンに近い抗体が体内にできるという利点がある」
きっとドブ水飲んでも腹壊さないと付け加えた。そんな有難いご利益があるらしい。
理屈はわかった。でも2週間は辛すぎる。我慢できない自信がある。
それを伝えると、
「あ。こういう医療もあるぞ。試してみるか?」、何故かたぬきの顔が輝いた。
「この場合は虫だが、そいつらにこの身体からもう栄養を摂取することは出来ないと、勘違いさせるんだ。そして身体の方には虫などいないと思い込ませる。半分はアレルギー反応に近いから、それでかなり誤魔化せるかもしれない」
うまくすれば早く治る可能性があると、たぬきは説明してくれたがさっぱり意味がわからない。コックも首を傾げながら、
「よくわからねぇが、ようするに病気や身体を騙すのか?」
そう訊くと、
「そうそう、そんな感じだ。この方法でもおそらく身体に抗体が出来ると思う。俺はやったことねぇけど」
エッエッエッと笑った。
完治したら自分で捌くのもいい考えだ。料理はさすがにコックの方がいいだろう。ホットなたぬき汁の一丁上がりだ。
俺はお前の実験台じゃない。

たぬき医者が調合した薬をコックに手渡し、服用方法を説明している。さっき何やら作っていたには薬らしい。
まだ絶不調だが熱だけは下がって、かなり身体が楽になった。たぬきだが腕は悪くないようだ。
そいつが帰る間際、呼び止めて訊ねた。
「お前、たぬきの癖に何で話せるんだ?」
すると、
「「今頃っ?!」」
遅っ!とコックとたぬきが同時にハモって、
「たぬきじゃねえ!さっきも言っただろ!俺はトナカイだ!」、たぬき医者がまた同じ台詞で喚いた。
人間がイボイノシシになることもある。普通の人間がたぬきになって、なんの不思議があろう。不思議なのは、どう見てもたぬきなのにトナカイだと言い張る医者のほうだ。






午前中は身体が楽だったので軽く鍛錬をした。すると午後になると熱が出る。
熱がどんどん上がっているが無視して続けると、いきなり背中に蹴りが入る。
「…っ。医者でもねぇのにドクターストップか?」
訊けば、
「いや。これはナースストップだ。俺がナース服を着なきゃわかんねぇか?」
ぬけぬけとそう答えた。下手なことをいって、そんなものを着られると非常に困る。
黙ってベッドに入ると、また目が回って俺は気を失った。
鈍らないように昼間は軽く鍛錬をする。だが夜には毎晩熱が出た。
また、たぬき医者がきて、一通り診察が終わると、
「すごい回復力だ」
獣並、いや獣以上だと、とても褒め言葉と思えない台詞を抜かして帰っていった。


此処について6日目の夜。
夜中に目が覚めると、天井が星空だった。
コックが水を持ってきて俺に手渡し、そのままごろりとベッドに転がった。
「天蓋を外した。天井はシールドで覆われているから空調は問題ねぇ。たまにはこういうのもいいだろ?今夜は星がキレイだ」

本当にコックはこういうのが好きだ。
俺が女だったらさぞかしいいムードになったかもしれないが、生憎と俺は男で、コックも男で、しかも星にまったく興味がなかった。どう考えてもロマンチックに程遠い。
ぼんやりと星を見ていたら、コックが星座の説明を始めた。

「あの細長いのは龍の冠座」

細く絞られた照明が、捲られたシャツから覗くコックの腕を青白く浮かび上がらせる。指差された方角へと視線を向けた。

「その左隣、小さく赤いのが3つ見えったろ。あれは龍玉。凶星だ。むかしは船乗りに嫌われていたらしい。本当は4つあるんだが、ひとつはフツー隠れて見えねぇんだ。それが見えると良くないことが起きるってな」

「ずっと下にいって、白い星が集まってるところ。王女の嘆き座だ。他が見えるのにあそこが隠れると数日後に天候が崩れる」


「あまり役立つ知識とは思えねぇが、お前、どこでそんなの覚えたんだ?」
隣で寝転がったままのコックに問いかけた。
「覚えたんじゃねぇ。知ってるだけだ。ジジイが入力したんだろうな」
余計なモンばっか入れやがって。そう舌打ちしながらコックは小さく笑った。

「ゼフとやらか?」
俺がその名前を口にすると、いきなり俺のほうを向いた。妙に嬉しそうな表情だ。
「てめぇ、知ってたんか?ジジイのこと誰に聞いたよ?」
コックのこんな顔を見るのは初めてかもしれない。もう7年近く一緒に過ごしているのに。俺が黙っていると奴が話し始めた。

「そいつは俺を作った技術者なんだけどな、といってもエンジニアってツラしてねぇし、どう見てもガラの悪ぃクソジジイだけど、むかし若い頃船乗りをしていたんだと」

「だからかもしれねぇが、俺にはそんな知識がたくさん入ってる。確かにいまどき役に立つとは思えねぇけど、ジジイの青春の思い出となれば消すのもなんだろ?」
そういってまた笑った。

ゼフ。職人気質のロボットエンジニアだ。
性格は頑固で凶暴。かなり気難しく、作るものを選ぶため作品数はかなり少ないが、その技術は業界において右に並ぶものはいない。
コックはそのゼフが引退前に製作した最後の作品だ。作品数が少ない為オークションに出品されることもなく、たとえ出されてもかなりの高額で落とされる。
ナミから教えられて簡単に調べ上げた結果だ。

「そいつは今どうしてる?」
引退後の消息は不明だった。奴に訊いたら首を傾げた。
「さあ。でも元気でやってると思う。殺しても死ねぇような爺さんだ」

小さな星がひとつ流れた。

「星が煌めくのは夜空だけじゃねぇって知ってるか?」

数え切れないほどの星の数々。その星の名前を俺は知らない。

「深い海の底に、星の呼吸にあわせて光る石があるんだとさ。どうやって星に感応するのかわからねぇが、その季節の星座とまったく同じ配列で輝くらしい」

冬のみみずく座。

夏には月光豆座。

コックがひとつひとつ星座の名前を読み上げた。

「海の中にも星がある。世界にはそんな海もあるとジジイが入力しやがった。この知識に需要があんのか?」

知らん。聞くな。無駄な知識というのが、この世にあるのかどうかも知んねぇ。お前の知識は、自分の好きなように自由に活用しろ。
俺がそう返事すると奴は寝返りをうった。広いベッドでごろごろごろごろごろ転がって、俺に背を向けたまま、
「もう気づいてると思うが、俺にはロボット3原則が組み込まれてねぇ。どうやって検査が通ったか知んねぇが、欠陥品といわれれば確かにそうだ」
小さな声で、
「ジジイが俺を作り上げた時に言った。『ロクでもねぇ主人だったら蹴り殺せ。自分で自由を掴み取れ』、だと。だが、自由ってのは意外と厄介なもんだ」
そしてそのまま「寝る」と、ひとこと言い残して本当に寝てしまった。

俺はまた熱が上がったようだ。
頭の芯がじんじんする。
目を閉じるとあっという間に眠りに落ちた。





ふと目を覚ますと、まだ夜中だった。
夜空の星は配列が変わっていて、横をみるとあのままの状態に近い格好でコックが寝ていた。少し背中を丸め、俺に背を向けている。

こんな広いベッドなのに。
だけど俺は熱がある。
そんな言い訳とともに、夏に涼しい場所を探して移動するようにして、コックを背後から抱いた。
両腕を腰に回し、腹のあたりで両手を握った。ちょうど臍の部分だ。
まるで月光のような金色の髪。ひんやり冷たくて心地よいのはやはり熱があるからだろう。
その髪に顔を埋め、ぎゅっと自分の手を握り、コックの身体を引き寄せたまま俺は眠りについた。
天は星の絨毯だ。ロマンチックに程遠い俺とコックでも、熱にうかされているのなら、意外とそれも悪くない気がする。










NEXT


2008/3.1