PINK SPIRAL 6








東街の外れから、街中を走り抜け、ひたすら北北西の山を目指す。
ひたすら走るうちに、背後からオレンジ色の陽が差すのを感じ、サンジがゾロに声をかけた。山の向こうに、陽が落ちようとしている。

「…クソが、あっという間に夕方だ。ぐずぐずしてたら日が暮れっちまう。もっと早く走れねぇのか。意外とのろまだな」
のろまと云われたゾロの額がビキッと音を立てた。
「俺が?のろま?上から物をいうなボケ。ならてめぇがこの握り飯を背負え。地蔵を背負ってるような有難い気分を味わえるぞ」
するとサンジがふんと鼻を鳴らし、
「荷物持ちは、天地開廟以来てめぇの仕事だろうが」
その言葉にゾロの眉間の皺がますます深くなった。
「勝手にきめつけるな。そもそもお前が原因でこうして走りまわる羽目になったんだ。文句ぬかすな、感謝しろ、誰がのろまだこの野郎」サンジを睨みつける。
「いいや、そもそもの原因はあの霧だ。俺じゃねぇ。感謝の気持ちなら知ってるが、てめぇに対する感謝となると話は別だ」
そんなの見たことも聞いたことも食ったこともねぇ、と、云うなりゾロは走る足を止めて、背負った荷物をどさっと地面に降ろした。
そして、ぽりぽりぽりぽり、面倒そうに頭を掻き、
「所詮俺にはどうでもいい話だ」
「何が?」
つられてサンジも足を止めた。
「てめぇは俺の言葉を信じてねぇ。自分があの時どんな風になってるかなんて解かんねぇからだろ?嘘でも冗談でもなく、お前のいやらしさは格別だ」そういってサンジを見た。
「男に色っぽいなんて言葉はふさわしくねぇかもしんねぇが、色気だけは半端ねぇ。顔は真っ赤だわ全身はピンクに染まっちまうわ、先っぽなんか触ってもいねぇうちから濡れてるし、もちろん自覚なんかねぇだろうが自分で腰も振ってる。我慢や抑えがきかねぇんだろ。体を震わせながらいつも泣きそうな顔で、必死で声を殺して善がってる。てめぇみたいに日頃アホなのが根元までぶちこまれてあんあん啼いてるとか冗談みたいな、そんな姿を見るのは正直楽しい。何回も云うようだが」
お前は自分の想像以上に淫らだ。締まりもすごい、男だから体力もある、そんなお前と遊ぶのは面白い、だから、
発情してても俺は困らねぇ。
ゾロが意地の悪い顔でそう言い放つなり、サンジの顔は怒りと羞恥で顔つきが変わった。
「…俺が………っ、………てめぇなんか…に……」
悔しそうに下唇をギリッと噛み締め、目の前の男をおもいきり睨みつける。
さて、まずは怒声がくるか、それとも蹴りが先か、はたまた同時攻撃か、炎のように憤るコックの、素の表情もなかなか悪くないと、そんなことを考えるゾロの背後で声がした。

「ビル!」
どこかで聞き覚えのある名前だ。
「おーーーい、ビル!もう店をしまうぞ!」

サンジも気をとられているのか、罵声も蹴りも飛んでこない。
二人はそっと視線を背後の店へと向けた。
魚屋らしき店先で、ひとりの男が片づけをしていた。かなり華奢なのか全体的に薄い感じの、30代半ばであろうと思われる男は丁寧な手さばきで木の箱を積み上げている。この男が先程の声の主らしい。
そこへ、店の奥から彼の1.5倍の身長差はありそうな大男が現れた。岩のようにごつい男だ。その男が店先にいる男に話しかけた。

「夕飯の用意が出来た。残りは俺が片付けちまうから、先に食っちまってくれ、ダーリン」
「いや大丈夫だ。あと少しだけだから。ありがとうビル」
男が額の汗をぬぐって笑いかけた。
「ありがとうとか寄せ、照れるじゃねぇか」
鬼瓦のような顔をぽっと赤く染めた。
「それと店じゃダーリンとかいうなよ。名前で呼んでくれ。前にも云っただろ」
「…すまねぇジジ。ああ、でもせっかく作った飯が冷めちまうんだ。温かいうちに食べてもらいてぇ。だから俺がするって」男が木箱を片付けようとすると、
「いいよ、一緒に食おう。気持ちは嬉しいけど、少しくらい冷めたって一緒の方が旨いに決まってるさ」また男が笑った。
すると大男が、
「………ジジ…俺、今ならわかる。ピンクの霧なんざただのきっかけでしかねぇんだ。俺ァはこの島で一番幸せ者だ…」
男が覆いかぶさるように抱きつき、
「おい、店先じゃまずいよ。辛抱できないのか、困った奴だ」
薄い身体で岩を支えようとした。

それを見ているゾロとサンジは、まるで金縛りにでもあったように身体が動かなくなってしまった。二人の喉がほぼ同時にごくりと鳴って、そして背中を冷たい汗が流れ落ちる。
その時、足元でニャーと甲高い声がして、二人は驚きのあまり後ろへ弾けとんだ。その小さな鳴き声の持ち主は茶色のぶち猫だった。
「おい、いつもの猫がきてるぞ」
いつまでも離れようとしない大きな身体の隙間から、男が優しく猫に話しかけた。
「やあ、お前も晩飯の時間か?ちょっと待ってろよ、すぐに用意してやるからな」
話がわかったかのように猫はピンと立った耳をピクッとさせ、二人に向かってまっすぐに駆けていく。
店のやわらかいランプの明かり、仲睦まじい二人の姿と猫、そんな街角の光景を、すっかり傾いたオレンジ色の陽優しく照らした。


ゾロの顔がおもいっきり引き攣って、
「…行くぞ」
傍らに立つサンジを促した。サンジの顔もゾロに負ける劣らず引き攣っている。
「北北西の山だったか?」
「そうだ、って、どこに行くんだ!?さも自信ありげに走り出したかと思えば…」
後を追いかけるように、
「…この馬鹿が、お前は後ろだ!!俺の前を走るな!!なんで夕陽に背を向けて走るんだ!!!北北西だっていったばかりだぞっ!!」
その後姿に向かって怒鳴り声を浴びせた。



山道の入り口で完全に陽が沈み、あたりはすっかり暗くなってしまった。
街の灯りも届かない山の、外灯のひとつもない真っ暗な山道、今夜は新月なのか月明かりすらない。このまま進んでいいものかどうか、実をいえばサンジは迷っている。
一度戻って仲間と合流したほうがいいのか、だがその場合「特定の場所を特定の順番で廻る」という条件から外れてしまわないか、ならば金を取りに戻ったのもまずかったのか、もしやまた一からやり直さねばならないのか。等々、判断がつかないまま登っていくうちに、道端に小さな小屋らしき建物が見つけた。
あたりは暗くて、うっかり通り過ぎてしまいそうな程小さい建物だ。
だが中は意外ときれいだった。もしや普段は猟師小屋として使われているのか、暖炉もあれば予備の燃料も置いてある。
無断でここを一夜の宿と決め、火を熾して冷えきった部屋を暖めた。春とはいえ夜はまだまだ冷え込む。白い煙が落ち着き、赤く燃える炎は部屋を暖め、冷えた身体を温め、そして二人を照らした。
その小屋の中で、隠してあった2本の酒を見つけた。1本づつ分け合い、渇いた喉を潤したゾロがサンジに話しかけた。
「腹が減った。何か持ってねぇか?」
「それ、てめぇが持ってる握り飯」
そう返事すると、
「他には?」
「ない」
ゾロは軽く舌打ちして、そのままごろっと横になった。このまま寝るか、あるいはもう1本くらい隠してないかどうか探してみるか、しか腹が減っている、どうしたものかと考えいると、ずっと暖炉の前に座り込んでいるコックが視界に入った。
炎が金色の髪に反射して、きらきら輝いているように見える。、少し丸まった背中、ひとり静かに煙草を燻らせる様はなかなか絵になっている。
ふと、あの魚屋のことを思い出した。
この男がビルでなくてよかったかもしれない、ゾロは考えた。もしも他の誰かだったらとか考えたこともないが、でも、もしも誘ってきたのがあの男だったらどうか、とか、想像するまでもなく誘いを受けた時点でアウトで、下手すると刃傷沙汰になって血を見る騒ぎだ。ならばルフィやウソップならどうかといわれても想像もつかないし、これについては想像もしたくないが、でも。
そこまで考え、ゾロはその背中に向かってまた声をかけた。

「おい」
指先を動かし、こっちにこいとコックを呼ぶ。
一瞬振り向いたサンジは、「犬か猫でも呼んでるつもりか?ふざけんな」そういって、ムッとした顔をまた暖炉へと戻した。
仕方なしにゾロは自ら場所を移動して、背後からコックのシャツの襟足を引っ張った。バランスを崩し、ゾロに倒れこんだ形になって、サンジは攻撃されたと思ったのか暴れた。
じたばたと暴れる身体を背後から両腕で押さえ、
「なんで今日は発情しねぇ?」
「知るかっ!!離せ!!」
怒鳴るサンジの背後から手を伸ばし、股間を握ると、
「……え?」 サンジの身体が硬直した。
「いつも俺は全面的に協力してる」
「…は?」
「いくら寝込みを襲われ」
シャツの隙間からもう片手を差し込み、
「たとえトイレで待ち伏せされ、またはいきなり風呂に入ってこられたり、飯時に拉致されたりとか、あるいは船尾で居眠り中に突如蹴られ、してくれと甘えた声でねだられようとも」
素肌を愛撫して、
「…いや、…あれは、俺が…アレでぶっ飛んでるから…」
「俺は協力を惜しまなかった」
「…協力って、いやちょっと待て!無理だろ!!正気じゃいくらなんでも無理だ!」
身を捩って嫌がるサンジの耳を齧り、股間をぎゅっと掌で掴むや、彼は悲鳴な叫び声を上げた。
「うわああああああああっ!マジかっ!」
そしてゾロが獣のように唸った。
「……ふざけんなこら。俺はいつも正気でてめぇとやってんだ!」

ベルトを外し、直接手を入れ、まだ萎えているものを掌に包む。硬さこそ足りないものの、ゾロの手に馴染んだものだ。揉むように扱けば、すぐにいつものようになる。
根元から先までぎゅっと絞るとビクンと身を震わせ、「…こ、ここは明るいから」などと、この期に及んでまるで処女のような理由を口にする男に、ゾロは黒い布を取り出しでその眼を覆った。
「…なんだ?つうか、汚ねぇ、まさかてめぇのアレか!!」
「うるせぇ!ご希望の暗さにしたんだろうが!文句ぬかすなっ」
「阿呆、逆だ!俺じゃねぇ、てめぇの眼を覆え、この変態がっ!」
ゾロは握ったままの掌にグッと力を込め、
「…これ以上、四の五のいいやがると、てめぇのけつに酒瓶突っ込む」
低く静かな声で耳に囁きかけ、サンジは心で声にならない悲鳴をあげた。

床へ押し倒し、ゾロは下だけ剥ぎ取った。
指であそこを馴らしながら、他の部分を愛撫する。最初はそんなことはしなかった。だが、意外なほどの感度の良さ、その反応が楽しくてやめられなくなった。だが、楽しいが欠点もある。執拗に触ると達するのが早くなるのである。
いつものように胸やらわき腹を撫で、いつもと同じように反応はいいけれど、あきらかに違う点があった。
煩い。
腐れホモ、だの、変態剣豪、とか、馬鹿だ阿呆だクソクソクソクソ口汚く、とにかく煩い。 眼ではなく、口を塞げばよかったとゾロは少し後悔したものの、次は両方塞いでやろうと考えた。

「お前、少し黙れ」
いつものようにズズッと奥まで挿入して、
「萎えたらどうする」
ゆさゆさ揺するよう腰を動かした。すると、
「…いや、…むしろ、少し萎えたら…どうだ?」
無駄に大きい、塩かけたら溶けるんじゃないか、むしろ溶けろ溶けてしまえと憎まれ口を叩く男の粘膜を刺激し、少し赤くなった乳首を摘むと、サンジの身体がびくんと仰け反った。
身を震わせ、必死で歯を食いしばっている。
何かを我慢しているような、黒い布で覆われてない部分から見て取れるのは、そんな辛そうな表情だ。さらに左の乳首を押し潰すように揉めば、止めさせようとしてかゾロの手を掴んだ。ぎゅっと手首を握る。力で引き離そうとするのを無視して、肉芽を指先で捏ねると身を捩って嫌がった。
「…っ」
微かに呻き声を上げ、ぶるぶる身を震わせる。
「おい」、ゾロが声をかけた。
返事をしない男に直接話しかけるように、今度は耳に唇を押し付けて、
「何を我慢してる?」
なおも無視する、その赤くて熱い耳を噛んで、
「気持ちいいなら声なんか我慢するな阿呆。ここは船じゃねぇぞ」
腰をグッと押し付けるとまた呻き声を漏らした。
「……ったれ……て…めぇなんかに…」
目隠しを外そうとするサンジの手首を捕まえ、
「そんなに酒瓶が好きか?」
「…うるせぇ…瓶のがまだましだ…」
それを聞いて、両腕を乱暴に頭の上まで持ち上げ、突き上げるように腰を動かすと、
「あ…っ!」
ようやくゾロの望む声がでてきた。

サンジの額には汗が滲んでいる。
歯をギリッと食い縛るその顔は赤く、彼なりに頑張ってはいるものの、意図せずに声がもれてしまうようだ。濡れた口から零れ落ちる声と荒い息、耳を覆いたくなるような甘さを含んだ声に、嫌がって顔をそむければ執拗にそこを責められ、また声が漏れてしまう。その間隔が短くなってきた。
「…あ…ち…くしょー、出してぇ…、つうか、もう手を離せ…って」サンジが訴える。
「目隠しは?」
「…取らねぇ」
「声は?」
「出せばいいんだろ変態、だから」
早くしろ、と催促するサンジの拘束をはずし、ゾロがサンジを見下ろすかのように身体を起こして、こういった。
「自分でしごけ」
サンジが眉をピクッと上げ、
「てめぇでやって…、それをお前に見せろと?」
ゾロを睨む。
そうだと大きく頷くや、ぷいと顔をそむけ、ゾロがムッとした顔でサンジの脚を持ちあげた。
「……あっ、あ…クソがっ…」
短く喘ぎつつ、辛そうに身を捩る。いきたいのにいくことができず、辛そうに身を震わせる、彼のはだけたシャツからみえる胸はピンク色だ。昂ぶったそれから透明な雫が溢れ、滴りは陰部を濡らして卑猥な水音となってゾロの耳を打つ。
おもわず喉がゴクッと大きく鳴った。
「…ったく、阿呆のくせに…いらん我慢なんかしやがって」
舌打ちして、さらに激しく腰を打ち付けると、
「やっ、…あ、ああ…っ…も…ち…くしょ…」
まるで縋るかのようにゾロの両腕をぎゅっと握って、サンジが甲高い声を上げて身体を震わせた。
「…うっ…ん…」
堪えきれない快感は声となって喉から迸り、
「…お前…どこから…そんな声が?…ちくしょー、全部出し惜しみしてやがったな…」
ぎゅっと眼を閉ざす、ゾロの眉間に深い皺がよる。あきらかに彼も何かを我慢している様子だ。
両脚をさらに上げ、浮いた腰に叩きつけると、
「…っ、あっ、ああ!」
身体をぴんと硬直させ、すぐさまガクガク身を揺らし、「ーーーーー…っ!!」声にならない呻きと共に、サンジが達した。
コンマ3秒の誤差で、ゾロが引きずり込まれるようにして、「…うっ」、微かに呻き声を漏らした。






パチパチパチパチ、暖炉で木が爆ぜる音がする。
背中合わせで二人が眠る。山の中の小さな小屋に、静かな夜が訪れた。
この夜、サンジのあるスキルが上がった。我慢に我慢を重ねた挙句、無意識のうちに身に付けてしまったものは、あれに触れずとも達してしまうという技で、それはゾロをも唸らせるほどの凄さだった。









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