PINK
 SPIRAL 2





偶然にも同じ年ではあるが、その性格は傲慢で凶暴、異常なくらい女が好きな反面男には容赦なく、おまけに短気で性格も頭もこの上なく悪い。だが、その男を自分の下に組み敷くのは気持ちがいいものだと、ゾロは初めて知った。今まで感じたことがないような、征服感と優越感が腹の奥から湧きあがってくる。
しかも不思議な色気がある。これは予想外だった。闇に浮かぶ白い肌はまるで別人のようで、その頬はすっかりピンク色に色づき、少し汗ばんだ肌はしっとりと手に吸い付くようで、皮膚の感触がたまらなく心地よい。
筋肉質な硬い胸を撫でて、その小さな突起を摘まむと、「…んっ」と微かに声が漏れて、身体がぶるっと震えた。さらにその先端を押すと、声を我慢しながら身を捩った。触れば触るほど小さな乳首がどんどん硬くなってくる。
股間はすでに固く屹立しているのだろう。熱をもって生地をぐいぐい押し上げていた。
男など興味もないし、抱いたことなど一度もないけれど、あまり深く考えずにゾロはシャツを裂くように大きく広げた。そして確信した。
これならばできる。
ゾロは僅かに頷いた。

「おい、下は自分で脱げ」
サンジは珍しく素直に頷くと、腰を軽く浮かせたままズボンを脱いで、自ら大きく脚を開いた。
その股間に手をやると、先が濡れていた。ゾロの方が恥ずかしくなるくらい滴っている。
サンジが両腕をゾロの首にぎゅっと巻きつけてきた。触れた頬がとても熱い。ゾロはぬめりを指で絡めとると、そのまま後ろの穴へと運んだ。
「んっ…」
呻き、緊張で強張る身体を指で裂く。執拗にその奥を弄りながら、
「…閉じるな。そのまま開いてろ」
閉ざされようとしている両脚をさらに大きく左右に裂いて、指の本数を増やし襞を広げていった。指の動きに腰が反応する。いやらしくも艶かしい動きで、筋肉をピクピク痙攣させながら、快感を貪るように腰を揺らしている。どこか魚に似ているとゾロは思った。
指の締め付けが少し緩くなった気がして、ならばもういいだろうと判断し、今度は自分のものを扱こうとした。が、するまでもなくそれは既に固く屹立している。そんなに溜まっていたのかと自分で驚くくらいの硬さだ。
挿入しようとして、ゾロはふと考えた。もしかすると前戯が充分ではなかったかもしれない、もう少し慣らしたほうがコックも負担が少ないのではないか、そんなことがゾロの頭を過ぎった。でも、自ら抱いてくれと強請る男に気遣いは不要。半ば強引に結論付けたのは、早く次の行為にうつりたかったからだ。

「てめぇで声は殺せ」
囁くように、耳元で注意を促した。
「仲間に気づかれたくなけりゃ自分でどうにかしろ」
念を押すとサンジがコクッと頷いた。
どうしてこうも素直なのか。
この男がここまで自分の思い通りになるとは今でも信じられなくて、そしてそれがこんなに楽しいものだとは考えもしなかった。
面白い。
右といえば左を向くような男が、その男がどうしたわけか何故か発情して、しかも船で仲の悪い自分に身を委ねようとしている。脚を開いて、してくれと強請っている。
自分の手と指の動きに、まるで陸に打ち上げられた魚のように、ピクピクと快感に身を踊らせている。
楽しい。
こんなまさかの展開に、いっそ大声で笑ってしまいたいくらいだ。



挿入しようとすると、やはり痛みがあるのか無意識で身体が上に逃げてしまう。辛そうに呻く。それを力で押さえ、強引に捻じ込むように、奥まで挿れた。
サンジは両手で自らの口を封じた。声が漏れないように、出てしまわないようにと、歯を食いしばって必死で塞いでいる。
痛みか、勃っていたペニスが萎えていることにゾロは気づいた。柔らかくなってしまったものを掌で覆い、ゆっくり扱くとだんだん硬さが戻ってきた。同時に、塞いだ指の隙間から荒い息が漏れている。ゾロは手首を掴んで強引に口から手を引き剥がした。
「…なんで?……塞げって…いった…」
サンジが不満を訴えた。だが、その顔はひどく淫らだった。唇がしっとりと唾液に濡れ、そして微かに震えている。
「…いや、声を殺せといったんだ。顔は隠すな」
「…っ…無茶いいやがって……」
辛そうに身を捩った。我慢に我慢を重ねたその頬は、見てるほうが恥ずかしくなるくらい赤かった。濃いピンク色だ。
掌に握りこんだペニスをぎゅっと絞ると、先からじわっとぬめりのある体液が滲み出てくる。扱くとぐちゅぐちゅ音がして実に卑猥だ。熱い吐息が顔に吹きかかって、漏れでた微かな喘ぎ声が耳を擽り、ゾロの背をゾクッとした快感が走った。
サンジは辛そうにぎゅっと眼を閉じたままで、その閉ざされた瞼からつうと流れ落ちたものをゾロは指ですくった。

「辛れぇか?」、訊けば、
「…んっ…痛てぇ…」、でも気持ちいいと、その口元からちろっと赤い舌が覗いている。
「…こんな経験あんのか?」、さらに訊くと
「…アホ、ある訳がねぇ…」、そういいつつ、ちらりちらりと見え隠れする舌がどうにも艶かしく、
「…あ、駄目だ…、駄目だ駄目だ駄目だ、…声が」
声が漏れると訴える唇の間から、濡れた舌がひらひらと蝶のように動いているのをみて、ゾロは自分の唇でそれを覆った。
柔らかい舌にはタバコのにおいが染みついていた。いつも吸っている煙草の匂いだ。そして舌を絡ませているうちに、泉のように唾液が湧いてきた。喉の奥から鼻を通じて喘ぎが漏れて、ゾロはまた自分の唇で封印した。
「ヤニ臭せぇ」
唇を離すと、
「酒臭せぇ」
そういいつつ、誘うように出された舌をまた唇で塞いだ。
手に握ったものがドクンと脈打つ。ずずっと深く挿入して、根元からずるっと扱くと身体がビクビク震え、ギュッと眼を閉じてゾロの掌に精を放った。





サンジが大きく呼吸をする。
濁った空気を吐きだすかのように長く出して、今度は胸いっぱいに吸い込んで、また出して、吸って、そしてその唇から、

「……………抜け。いつまで突っ込んでるつもりだ?」

醒めた声が吐き出された。
さっきまでの色艶の欠片もない冷ややかな眼で、サンジがゾロを睨みつける。
「…もういい。もう済んだ。とっとと抜け」
忌々しげな舌打ちをして、
「…ったく、無駄にでけぇったら」
事態が飲み込めないゾロを無視してさっさと身体を起こした。

「…てめぇ、ふざけんじゃねぇ…。てめぇだけ出して終わりな訳あっかドアホ」
低く唸りをあげる男に、
「ふん、知るか。便所でも行って来い」
素早く身支度を整え、離れていくのを止めようとその腕を掴めば、
「まさか強姦でもしようってのか?」
顎でルフィの寝ている方を指して、
「勇者だと褒め称えてぇところだが、奴らに気づかれるぞレイプマン」
摂氏マイナス100度の眼で睨んだ。空気も凍る冷たさである。
捕まれた腕を乱暴に振りほどき、冷たい視線を残したまま、サンジは自分のハンモックへと向かった。


薄暗い男部屋で、ルフィがガーガー、ウソップがプープー、チョッパーがスーピーといびきの合唱が鳴り響いている。その中でひとり、不完全燃焼の身体と気持ちを悶々と抱えた男が、ある決意をした。
明日、そう明日になったらば。
朝飯を食い終わったらコックに抗議をしよう。
そう。誰がなんと言おうと、

――斬る。

朝食後を選んだのは船長たるゾロのルフィに対する配慮である。飯の支度をしてる時や、または朝食が出来上がる前では、先にルフィと戦闘になってしまう可能性があるからだ。コックを守るために、空腹の男は全力で闘うだろう。

――朝飯が終わったらば。

ギリギリッと奥歯を噛み締め、やり場のないゾロの憤りをよそに、サンジの寝息がそこに加わった。


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