大人  [大人向け]









4月30日  PM22:58


「あっ…、てめぇだきゃ、絶対に許さねぇ……」
ぶちのめす、オロス、オロスオロス、クソがクソがくたばりやがれ死ねばいい、とサンジは甘く物騒な呪詛を繰り返した。
「…おい、聞いてんのか?聞こえてんなら…返事ぐれぇ…し………あっ……」
喘ぎながら呻き、そして罵り、真っ赤な顔で、眼を潤ませゾロを睨み付ける。
原因に心当たりはあった。
怒っている。兎にも角にも怒ってる。ものすごく怒りながら、とてつもなく淫らだ。
はてさてどうしたものかと、ゾロは少しばかり考えあぐねた。




1.大人のビンゴ


先日、ゾロの会社で創立記念パーティーがあった。
創業当時から毎年催されているイベントだ。中堅どころの広告代理店ではあるが、手堅い経営と積極的な事業展開に業績は悪くもなく、パーティーには多くの取引業者が様々な品を提供してくれていた。
特にビンゴ大会がその景品の豪華さゆえ、パーティの目玉となっている。
その景品のひとつに『女箱』と『男箱』というものがあって、これは社員達の間で密かに人気があった。『女箱』には様々な化粧品や小物、アクセサリーが入っていて、ブランド物が混じっている確率が非常に高い。そして『男箱』は髭剃りとか、高価な養毛剤や、中には使用目的のわからない奇天烈な物もあるが、こちらも同様に人気だ。
ゾロは『男箱』から選んだ。包装されているので中身はわからないけれど、軽くて手頃な大きさなのでそれを選んだ。ようするに、大きいと持ち帰るのが面倒だからである。



2.大人の需要

サンジはコックだ。
お世辞にも治安がいいとはいえない街で、柄の悪いお客様を相手に、ヤクザあがりの祖父の経営するレストラン『バラティエ』で、ヤクザより性質が悪い従業員と共にコックをしている。 そんな店だが美味いともっぱら評判で、かなりな商売繁盛ぶりだ。ヤクザも来れば、 もちろん堅気の客も来る。 だが店内において堅気もやくざも扱いは同等だ。喧嘩や揉め事はしょっちゅうで、その派手な騒ぎを見たさの物好きな客も多かった。世の中、どこにどんな需要があるかわからないものだ。



3.大人になる

二人は高校時代の同級生である。
一応共学ではあるが女子生徒などいないに等しく、ほぼ男子校といって差し支えない高校だった。 2年間クラスが一緒だったけど、いつも無駄に喧嘩ばかりしていた。卒業後は進路も別れ、相手の存在すらすっかり忘れてしまったある日のことだ。ゾロが社会人1年生で、サンジが副料理長になったその年、二人は街で偶然再会し、 その後ふとしたはずみというか、そういう関係になった。
サンジいわく、『青天の霹靂』で、ゾロに言わせるとどうやら『魔がさした』と、後日その時の心境を言い表した。 そんなこんなして、なんだかんだいいながら、それから二人はお付き合いをしている。 その事実に高校時代の友人達は顎を落としつつも、ある賭けをした。
「どちらが受けとやらで、どちらが攻めというやつなのか?」

その賭けで友人であるウソップは大儲けをした。確認は他の友人がゾロに直接とった。訊く方も訊く方だが、答える方も答える方だ。
賭けがあったことを知ったサンジは、 「おい、倍率はどうだった?」、「いくら儲けたよ?」、「つうか、何でてめぇが知ってんだ?」、青ざめるウソップを締め上げ、はしっぱを残して掛け金を奪い、「俺で儲けたんだから俺のもんだろ?」、ケケッケーと笑った。
大方の予想では圧倒的にサンジが『攻』だった。 祖父の影響かサンジはガラが悪い。態度がでかくて傲慢で、短気のうえ喧嘩も強くておまけに性格も悪く、山のように高いプライドはどこか崩れそうな角度で歪んでいる。ただ、見た目だけはそう悪くない。オンナが好きで好きでしょうがない金髪碧眼、なのに男を選んだ変な男。 あの外見に騙されてたまるかと、皆は『サンジ攻』に賭けた。
ゾロはといえば、サンジ同様にガラが悪かった。 喧嘩も強くて口も悪くてそう頭もよいわけではないが、でも性格だけはサンジより若干まともだ。
筋トレで締まった身体に無駄のない筋肉、均整のとれた体をしている。 だが皆は考えた。ホモの実態など解からないが、 「おそらく、ああいうのに限って『受』とやらに違いない」 そう考えた。
賭けに勝ったウソップだが、彼はそれを予想した訳ではなく、もちろんホモの気持ちなど知る由もなく、ただ自分の眼で見たから知っていただけだ。
それは偶然だった。 夜の街でふたりを見かけて、道路の反対側から手を振って声をかけたけど気づいてもらえなかった。トラックの騒音に声が消されて、ウソップは走って二人を追いかけた。 ビルの間にふっと消えた後ろ姿を追って、驚かしてやろうとそっと忍び寄れば、驚愕したのは彼自身だった。
キスをしていた。 サンジが壁にもたれ、その唇からゾロは煙草を外し、覆いかぶさるように唇に唇を重ねていた。舌も入っていたと思う。 サンジの手がそっとゾロの後ろ首に回されるのを見て、ウソップは地面まで落ちた顎を持ち上げ、「とんでもないものを見てしまった」と、慌てて走って逃げた。 それからというもの、意外と口が堅い彼はふたりが噂になるまで黙っていたのである。
というか、ただ口にしたくなかった、忘れたかった、なかったことにしたかったのかもしれない。



4.大人の愚痴

そんな二人もお付き合いして2年になる。 相変わらずしょっちゅう喧嘩してはウソップ相手に愚痴をいい、ウソップにしてみれば、 「ホモの痴話喧嘩なんざ、見たくねぇし、耳にも入れたくもねぇ」 と、はっきりいって迷惑以外何物でもない。

酒を飲みながらのサンジの愚痴は長かった。よくもまあここまで悪口がでるものだ、と感心したくなるくらいの悪口雑言を並べ立てる。そして最後に泣く。酒の所為もあって、めそめそべそべそ泣き出すから始末が悪い。 ふとウソップは訊いてみた。
「女好きのおめぇが、なんで男と、つうか、ゾロと付き合ってるんだ?」
前から不思議に思っていたことだ。 女性崇拝者で、男を虫よりも毛嫌いしてるサンジが、何故男なんかとお付き合いしているのか。
「付き合ってねぇ…。こうやって喧嘩してんだろ…」
「いや、だから、喧嘩も含めて」
「だから付き合ってねぇ!!だって…、だってあの馬鹿は、あの阿呆は、俺の愛しのカレンちゃんを…」
ウソップの話を怒声で遮り、またカウンターに顔を突っ伏して泣いた。カレンちゃんというのは、サンジの一番のお気に入りのAV女優である。
「カレンちゃんはもういい。何回も聞いた。さすがにもう聞きたくねぇ」
お気に入りをゾロに消された。バックアップは取っていなかった。
「ひでぇ…。まだ1〜2回しか話してねぇのに…、友達なのに冷てぇぞ、クソッ鼻…」
「ひどいのはてめぇだっ!0が一個足んねぇっ!!だからさ、ゾロがいるんだから、 もうAVなんかいいじゃねぇか…。わざと消したわけじゃねぇんだし…。いやいや、だから、そもそもゾロなんかと付き合ってるんだ?」
聞けば、
「なァ知ってるか?あの馬鹿ってすんげぇ変態でさ、俺のカレンちゃんを消しときながら、『なら俺で抜け。写真でもなんでもくれてやる。どんなポーズが好みだ?』って抜かしやがった。野郎で抜けるかってんだ。筋肉で勃つとか拷問すぎったろ…..。あんな変態筋肉に惚れられた俺って、マジで可哀想じゃね…?」
そういってまた泣く。
酒に酔って泣きながら愚痴るサンジは、ウソップの話は耳に入らない。そしてそれを聞いたウソップの顔が赤くなった。酔ったサンジと同じ赤だ。
「おまけに、変な体位ばっか要求しやがってさ。四十八手なんて、あれは男女のセックスの為にあるようなもんで、微妙に穴の位置が違うんだから無理だっていってんのに、聞かねぇ。お前どう思う?」
聞いてもいない、友人の、ホモのシモ事情を聞かされ、ウソップの目からぼろっと大粒の涙が零れ落ちた。
「無理すりゃできねぇことないかもしれねぇが、俺はそこまでチャレンジャーじゃねぇ…。しかもしつこい…、お前さ、一晩で何回できる?せいぜいやっても2回ぐれぇだろ?なのにあの馬鹿は3回も4回も…」
「………」
「おい?」
「………」
「ウソップ、聞いてるか?」
「………」
「ウソ、こら、クソッパナ!聞いてんのか、って聞いてんだろ!なんで、だらだら泣いてやがる?泣きてぇのは俺の方だ!」



5.大人の嗜好

ゾロはとても酒に強い。いくら飲んでも酔うわけでなし、サンジのような愚痴もいわなければ、、それに泣き上戸でもない。
「おめぇらまた喧嘩してんだって?そろそろ仲直りしたらどうだ。サンジの愚痴を聞かされるのは辛くてかなわねぇ…」
ウソップがグラスをからんと鳴らし、小さな溜息をついた。
「仲直りするのしねぇも、俺が悪いわけじゃねぇ。全然、さっぱり悪くねぇ」
「…あっそ。おめぇらって似てるよな…」
ふと、ウソップはあることを思い出した。サンジに聞いたのと同じ疑問だ。
「あのさ、つかぬことを聞くが、何でおめぇら付き合ってんだ?いや、なれそめ話を聞きたいんじゃねぇ。勘違いするな。それはむしろ聞きたくねぇから。つうかさ、あのサンジのどこが良くて付き合ってんだ?」
聞かれて、ゾロは手の中のグラスを一気に飲み干した。
「生意気だろ?」
「おお、生意気だ。異論はねぇ」
「足癖悪くて、喧嘩もやたら強えぇ」
「充分すぎるほど知ってるぜ」
「おまけに口汚ねぇし、馬鹿で短気で女好きで我儘だ」
うんうんとウソップは頷いた。
「似合いもしねぇしょぼ髭なんか生やしやがって、馬鹿のくせになに考えてんだか、って感じだよな」
ゾロがまた酒を注ぎ、その隣でウソップはひたすら首を縦に振り続けた。
「で、どっから見てもアホなチンピラなわけだが、あれはすげぇ」
「あれ?」
「なんつうか、色気があるとかのレベルじゃなく」
「へ?」
「色白だからかもしんねぇが、顔だけじゃなく首や胸元まで赤く、というか、ピンク色か?声を我慢してっから余計かもな。我慢に我慢して、我慢できずに漏れる声のいやらしいこと、最後に涙までぼろぼろ漏らすし、そんなの見せられたら俺だっていろいろ我慢できなくなんだろ?俺が悪いんじゃねぇよな?」
「いや………」
ウソップはなんと返事していいかわからなくなった。
「苛めるなっていったって無理だ。あんないやらしい面をする方が悪い。だよな?」
「………」
「SMの趣味なんかねぇが、してくれっていうならしてやってもいい。まぇ、言うわけねぇけどな。アホがあんな余裕のねぇツラして、突っ込まれてんのに俺に反撃しようとしたり、馬鹿のくせに生意気としかいいようがねぇ」
「………」
「…つうか、変な話だが、あの強気なところは妙に癖になる」

「どんだけずぶずぶに蕩けようと、油断してると逆襲しようとしやがる」

「氷のような青い眼で睨んできたり、あれは背中がゾクッとするくれぇ気持ちいいというか」

「まァようするにだ、あの生意気な男が自分の手でああなっちまうのはたまらんもんがある。すっげぇ淫らで、艶と色気があって、見てるほうが赤面するくらいだ。と、まあ、話だけ聞いたんじゃ信じられんねぇと思う。俺だって最初は目を疑ったくらいだ。見せられる物なら見せてやりてぇが、頼まれても見せる気はねぇぞ」

「なんだかんだ言って…、っておい、ウソップ。聞いてるか?寝てんのか?白目剥いて寝んじゃねぇって、気持ち悪ぃ。ったく酒が弱えぇなおめぇは」


ウソップはノーマルだ。ホモやゲイの友人も知人も、この二人しか知らない。だからたまたま、この二人がそうなのかは解からないけれど、この2年間でウソップは知った。 ホモの世界はディープだ。そしてあの二人は、似たもの同士の恥知らず。



6.大人の事情

4月30日  PM21 :15

店を早仕舞いしたサンジがゾロの部屋にやってきた。 ゾロの部屋はすっきりしている、というか余計な物があまりない。必要な物さえなくて、「電子レンジ」 「調理道具」 「調味料」 「パソコン」 おまけに「バスタオル」まで運んできたのはサンジだった。 一緒に住んでいるわけではないが、この部屋の事は知り尽くしている。だから、その部屋に見慣れない包装の物があるのもすぐに気づいた。
「何だこれ?」
「あ?この前の創立記…」
思わず口を閉ざしたゾロにサンジの蹴りが炸裂した。

「てんめぇ…」
サンジが獣のような唸りをあげる。
「今度は教えてくれっていっただろ!!!去年行きそびれたからさ、んもう、そりゃもうすっげぇ楽しみにしてたのに…。ひでぇ、てめぇマジでひっでえええーーーーー!!」
昨年、創立記念パーティーが終わった後のことだ。そういう催しがあると知ったサンジは「来年は俺を誘え、行きてぇ、絶対忘れるんじゃねぇぞ」何回も念を押した。
「社員でもないのに、お前が来んのか?」、ゾロは社会人として当然のことを言ったが、「いや、業者のふりして入る。なんならコックでもいいし、ダメなら清掃員でも構わねぇ」と、プライドを投げ捨てて、やけにしつこかった。
これには訳がある。 以前に二人でいたとき、偶然にナミやロビンとあったからだ。経理課のナミと秘書課のロビン、ともに美しい女性だ。 この二人を見たサンジは眼からはピンク色のハートが飛び出て、そして奇妙な踊りをした。
だが次に会う機会がない。コックと会社員、職業も違えば勤務の時間帯も合わず、そしてパーティーの存在を知ったサンジが、「行きてぇ、絶対に行きてぇ、忘れるな、俺を呼べ」と、しつこく迫った。
別にゾロだって忘れていた訳ではないが、面倒なので忘れたふりをしただけだ。

「その日はお前、仕事だっただろ?」
「阿呆いってんじゃねぇぞ!仕事なんかと一緒にすんな!ナミさんやロビンちゃんとどっちが大切だと思ってんだ!」
「そら、仕事だわな」
「汚ねぇ…。マジで汚ねぇ…。教えてくれなかった癖に、俺の仕事の所為か…?」
「そもそも俺は誘うとか言ってねぇし、そんなの約束した覚えもねぇ」
「てめぇという奴ァ…。今更そんなこといいやがって…、この腐れ毬藻がああああああああ!」
「お前が勝手に喚いてただけだっ!約束してねぇぞ!」
「黙りやがれっ!俺が、この俺様があれだけあんなに頼んだのに…。だああああああッ!もういい!てめぇとは離婚だ!やってらんねぇ、俺ァ実家に帰らせてもらうぜコンチクショー!」
「望むところだ!離婚でもなんでもしてやる!出て行く前に婚姻届にサインして行け!」
「…んなの、誰が書くかあああああああ!!」

古いが壁の厚さと防音が取り得の建物だ。喚き暴れて、ゾロは腹に5発と顔面に3発食らい、サンジは6発ぶん殴られて平手2発引っ叩かれ、壁まで吹っ飛んだ。最後にウエイトにものをいわせ、ゾロが馬乗りで圧し掛かって両手をネクタイで括り、ベッドの柵に縛り付け、面倒な両足をも封じた。

「ほどけ!」
「うるせえっ」

ゾロはふんと荒い鼻息を放ち、ふと足元を見ると、そこにビンゴの景品が投げ捨てられていた。
こんなものの所為で、と自分の迂闊さを棚に上げ、バリバリと包装を乱暴に破り捨てた。そして中から出てきたものは、見たことがない変な形をしていた。



7.大人のあそび

「何だこれ?お前知ってるか?」
目の前にかざし、聞くとサンジも首を傾げた。
「さあ、見たことねぇな」
そして再び、
「いいからほどけっ!」
大声で喚いたが、それを無視してゾロはさらにその景品を調べた。 表示は全て外来語である。白く奇妙な形をした物体、その使用目的がわからない。
「エ…、エネマ…グラ?」
ゾロが小さく首を傾げた。
「だから、そんなモンはどうでもいいって!早くほどけっ!いたいけな俺様を縛り上げ、あらぬことをしようとか思ってねぇだろうな?てめぇはとことん変態だから油断ならねぇ!」
「…っとにうっせぇな。そんな趣味はねぇ、………が」
「が?」
「これって、ケツに突っ込むんじゃねぇのか?」
「へ?」
「そうだ、やっぱそうだろ?あ、ローションか、お、やっぱりだ。裏面に図解があんぞ」
そしてサンジの身体を横にするとベルトを外し、パンツを下げてお尻を剥き出しにした。
サンジが嫌がっている。
すごく嫌そうに身を捩って、
「だああ、やめろって!俺の承諾もなくふざけんなっ!!」
怒鳴るも、それにローションを垂らし、窪みに押し当てた。冷たさのせいか、きゅっと窄まる襞を器具で開きながら、
「…っ、うへぇ…。き、気持ち悪ぃ……」
ぬるっとそれがサンジの腹の中に納まった。
「そんな得体のわかんねぇもん突っ込むなよな…。おい、気が済んだだろ?もう抜けって、気持ち良くもなんともねぇ…」
「バイブじゃねぇよな?」
不思議そうにゾロが首を捻った。
「ただ出したり挿れたりするのか?どこにもバイブ機能はねぇぞ?しかも、なんでこんな変な形なんだ?」
襞の間から変な金属が飛び出ている。何が何だがさっぱりわからない。使い方、装着方法は間違ってないと思う。だが、だから何だというくらい訳がわからなかった。
サンジはといえば、得体の知れないものを無断で突っ込まれ、挙句に朝顔のように観察されるのがいたたまれず身を捩った。
気持ちよくないどころか、ただ腸に異物感があるだけだ。
「抜けってのが聞こえねぇのかボンクラ。ついでに手足もほどけスットコドッコイ。俺のケツを眺めて楽しいか変態?変態の総大将め。てめぇのような変態、聞いたことも見たこともねぇ。生きててすみませんなレベルだろ」
本当にサンジは口が悪い。そしてゾロは立ち上がった。

「さて、コンビニでも行ってくるか。酒が切れてる」
「え?おい、ちょ、ちょっと……」
「すぐに帰ってくっから」
「いや、あのさ、その前にほどいてくんねぇ?つうかさ、この変なのだけでも抜いてくれれば、な、な?愛してんぜハニィ、抜いてくれるよな?」
可愛く、下からものをいってみた。
「おい、お前は焼酎か?」
玄関先で靴を履きながらゾロが声をかけ、
「できればビールの方が…。って、お、おいマジか?おい!放置プレイかます気か、このクソやろ!絶対許さねぇ!ドブに顔突っ込んでくたばりやがれ!」

4月30日 PM21 :43
閉まる扉と小さな鍵音、そして怒声がサンジと一緒に部屋に閉ざされた。



8.大人のおもちゃ

酒だけ買ったらすぐに帰るつもりだった。だらだらコンビニに長居するのはあまり好きではない。レジに向かう途中、ブックスタンドに置かれていた本に眼がいった。剣の特集号だ。
ゾロは本を眺めるのは好きだが、字を読むのはそう好きなほうではなく、だからその本を食い入るような目で眺めた。ページを進んでは戻って、何度も何度も見返し、ふと気づいたら店の時計が午後10時30分を回っていた。
面倒なことになったとゾロは心で舌打ちした。きっと怒っている。得体の知れないものを挿入され、変な格好で放置されたことを、それはそれは怒っているに違いない。
二人とも明日は休みだった。一月に一度あるかないかの、久々に二人で過ごす夜なのにいつもそうだ。思うとおりに事が運んだためしがなかった。ならば取るべき行動は決まっている。さっさと家に戻って、ちゃっちゃと酒を飲ませて、いろいろ緩ませよう。
サンジも酒好きだが、少なくとも自分よりは弱い。

部屋に入ると、出たときと同じ状態で横たわっていた。 白いシャツは乱れたままで、手足には幾重にもネクタイが絡まり、ずり下げられた黒のボトムが尻の白さをいっそう際立たせている。
いい眺めだ、ゾロは立ったまま暫くそれを鑑賞した。
すると、
「…ん…っ」
うめき声が聞こえた。
「…あ」
よく見れば身体が小さく震えている。
はて、と不思議に思い近寄ってみれば顔は赤く、目は潤み、呼吸も荒く、呻きというより喘ぎだった。
「おい、どうした?」
顎に手を置くと、顔をゾロの方へ向け、
「う……っ……何だ、これ……は、腹が…っ」
蕩けるような眼で訴えた。
どうにかしろと文句をいう。
ゾロはパソコンを開き、商品をネットで検索してみた。 なかなかのヒット数で、ビンゴの景品は外国製だった。前立腺、会陰マッサージ器具である。 白い物体のなだらかな凸が、伸縮する腸内で前立腺を刺激して、長時間快感を味わえるという代物だった。射精を伴わない快感、それは女性の絶頂感に近く、ドライオルガスムと呼ぶらしい。 いいことばかり並べられているが、もちろんデメリットもあるのだろう。
それはいいとして 、背後から聞こえる罵りがそろそろ気になりはじめた。 オロス、くたばれ、死ねと喘ぎながら罵る声が。
ドライオルガスムとやらの状態に陥ってるかどうかゾロにはわからないが、透明の雫に濡れたペニスは、少し触っただけで簡単に精を放ちそうなくらい張り詰めている。酒云々どころでなく、予想外の展開でサンジの身体が出来上がってしまった。

「どうにかしろ」、サンジは睨む。 「早くいかせろ」、と艶やかな顔でゾロを睨む。剣呑な罵りさえ甘く、しっとりとした蜜のような囁きだ。

さて、小さく頷いて、両指をボキボキ鳴らしながら、ゾロはサンジの元へと近寄った。

後でこの男は自分を蹴るだろう。ならば今のうちに足腰立たなくさせてやるかと思う。もっと 口汚い言葉で罵倒するだろう。だったらその口を塞げばいいだけだ。
噛みつかれるかもしれないが、されたら3倍返しである。遠慮せずにがぶがぶ噛む。


でもそれは明日のこと。
今からは、大切な大切なふたりだけの、とても大切な大人の時間である。














END


2006/4.29  2011/12.26改稿
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[大人の時間] です