大人の時間









すっかり身体が出来上がっている。


脚の拘束をほどき、下を全部降ろすなり、ゾロの顔面で蹴りが炸裂した。
猫のように毛を逆立て、ハァハァと肩で息をしながらサンジが睨む。その顔は真っ赤だ。
腕で乱暴に鼻血を拭い、やはり腕の拘束だけは残しておこうと考え直してサンジの上半身を自分の膝上へと乗せた。
仰向けのまま、胸が反り返っている状態だ。
そのまま抱き寄せ、軽く唇を重ね、やわらかく湿った舌を掠め取る。舌先を絡ませ、根元から強く吸うとますます呼吸が早くなってきた。息がねっとりと熱い。煙草のヤニの向こうに、甘く発情した雄の匂いがあるのをゾロは嗅ぎとった。
それは今さっき、自分の顔面に蹴りを入れてきた男とは思えないほどの色香で、この激しいギャップが彼の特徴のひとつでもある。
凶暴さと不思議な色艶が共存している。いつもこうならば多少は可愛げがあるのにと思いながら、つんと鼻の奥に残る血の匂いに、ゾロは仰け反ったままの胸に手を置いた。
白いシャツの上から生地ごし撫でる。そうしているうちに指先は小さな突起を見つけ、それを爪先で擦った。
指の腹で押すように撫で、そして引っ掻く。サンジが切なそうに身を捩って、
「…っ、そういう中途半端なことを……わざとだろ…?」
ゾロを睨んだ。

サンジに対して手加減というものを、ゾロはあまりしたことがない。一見無骨そうにみえるが意外と器用な指先で、いくら泣こうが喚こうが、自分がやってみたいと思うことに躊躇いがなかった。
情動には基本忠実であり、時には姑息な手も使ったりと、彼は目的とするものにブレがなく、皮膚に歯を立て、弄ぶように噛み、そして舐めてみたり少しばかりけだもの染みているが、その加減は絶妙だった。なぶるように責めてくる。
男らしいが意外と粘着質、馬鹿のくせに時に小賢しく、行動は大胆かつ細心だ。そんな性格がセックスにも出ているとサンジは思う。
行為に遠慮がない上に、焦らされ、痒いところの、その周りだけをかかれているような、そんな生殺しの愛撫をされる。かと思えば、執拗に同じ場所ばかり責められ、最後はなりふりかまわず乱れてしまうことが多い。何が嫌というか、つい流されてしまう自分がたまらなく嫌だった。
嫌だが、諦めに似た感情も存在する。諦観というのか、それでも嫌なものはやはり嫌で、もう少しどうにかならないかと考えているがなかなか思うとおりにはいかず、だから半ば諦めているのが現実だ。
そして今、そんなリアルの真っ只中だった。
乳首にされる愛撫は泣きたくなるくらいもどかしく、身を捩るほど切ない。そういう時に限って、こういうことをするのはいつものこととはいえ、やはり腹立たしい。 ムカつくほどいやらしい。
サンジの口から呪いが零れた。
「…あ、…てめ…絶対……オロ…ス…」
絶対にだ、と何度も繰り返す口に指を入れ、唾液に濡れた指先で、小さく膨れ上がった乳首に触れた。
ぬるっとする刺激に、サンジは背を反らした、呻いた。
「あっ……っ………」
上からずっと顔を見られていることが、恥ずかしくてたまらない。そしてそれを馬鹿が喜んでいる。変態を喜ばせてたまるかと思うが、何度も濡れた指で撫でられ、優しく摘ままれると声がうまく抑えられなかった。
また指を口に含まされ、それをキツク噛むと今度はローションを胸に塗りつけて、ころころと転がすように玩ぶ。快感が電流となって腹に溜まっていく。

「……ん…、すげ……変……」
「何が?」
「…腹ん中で……あれが…動く……」
サンジの訴えに足を広げ、器具を挿入したままのアヌスを覗き見た。バイブじゃあるまいし勝手に動くはずはない。だとすれば、乳首の刺激により腸内が繊毛運動を起こし、器具が勝手に動いている感じがするのかもしれないと考えた。広げたついでに、会陰に器具の一部をぐっと押し付けると腰が震えた。ここはサンジの性感帯だ。
すっかり力の抜けてしまった両足を軽く折りたたんで、膝の上に置かれたままの胸を両手で愛撫した。顔から喉、胸まですっかりピンクに染まっている。辛そうに上下する喉が淫らだ。濡れた唇が甘く喘ぐ。

「…抜け……、……もう抜…って…」
「もう少ししたらでいいだろ。せっかくだから楽しんどけ」
そういって乳首を捏ねる。
「……アホ…楽しむどころじゃ…ねぇぞ……」
そんなサンジの訴えを、気持ちいいけどずっと見られているのが嫌なだけだろうとゾロは考えた。だからどんな訴えも話半分にしか聞いていなかった。
胸を反らしたまま、自分の膝の上で喘ぐ喉が艶かしい。白いシャツの隙間から見える肌が桃色に染まり、しっとり汗ばんでいる。
「ん…っ…」
切なげな声で啼き、
「も…、そこはやめろ…触るな」
生意気にも愛撫から逃げるような仕草をしたので、ぎゅっと強く摘まんでから爪で引っかいた。すると、ぶるっと胸を震わせ、悔しそうに自分を睨みつける青い眼が、しっとり潤んでいるのが見えた。

「…や…………変だ…」
サンジが首を左右に振った。両の耳朶は果実のように赤く、その熟した耳を噛む。
「…めろ…って」
そして、
「な…んだ………?」
身体を一瞬強張らせた。
「ァ、ァッ…ァ……」
それは小さく、甘く、切ない声だった。
ゾロは右手を胸から下腹部へと移動させた。筋肉質な腹部が震えている。そしてペニスには触れないよう注意しながら、足を付け根から広げた。内腿を撫でると、筋肉が魚のようにぴくぴく動いているのを感じた。

サンジがゾロの名前を呼ぶ。
珍しく甘い声で、ねだるように、小さく二度名前を呼んだ後、四肢を攣らせて全身を震わせた。
「アッ、アアッ!」

その動きから達しているのはわかったが、いつもと違う点がいくつかあった。
射精していない。
ペニスの先からは何も出ていなかった。透明な滴りもいつもより少なく、ようするにそこがウエットでないのに身体は痙攣したままだ。
「ア……ッ…」
喘ぎは嗚咽のように短く、閉じられたままの眼から涙がつうと流れ落ちた。
乳首を弄ぶと身を捩って嫌がる。
「ヤッ…」
膨らんだそれをさらに捏ねると、
「ヤッ、やめ…、アアッ!」
金髪を左右に振り乱し、啼いた。赤く腫れあがった乳頭を爪で押し潰すと、啼きながら、一瞬だけすがるような眼でゾロを見て、またすぐに眼をぎゅっと閉じた。

左手で肩を抱き、ゾロはサンジ声をかけた。
さっきから身体がいきっぱなしだ。
「おい」、耳元で囁き、軽く頬を叩き、「聞こえるか?」、呼んでも眼はずっと瞑ったままで、口から荒い息遣いしか聞こえてこない。
首を啄ばみ、薄い皮膚を口に含むと、汗ばんだ肌がふるっと震えた。
そして今度は耳朶を噛み、しゃぶるように耳を愛撫すると身を捩って嫌がった。
そんな状態がどのくらい続いただろうが。ふと股間に眼をやると、いつの間にかペニスが萎え始めていることに気づいた。身体は反応しても、肝心のものが萎えてきている。変わらず滴りも殆どない。
ゾロは考えた。この状態は、もしかするとかなり体力を消耗するのではないか。
そして足を持ち上げ、大きく広げると、それをアナルから引き抜いた。
「ヤ…、ア、アアッ!」
身体から抜け出たものを惜しむかのように、襞をギュッと窄ませ、ぶるっと腰を震わせた。

ずっと玩具を咥えていたそこは柔らかくなっていた。熱く蕩けるようだ。指で拡張するまでもなく、ゾロを容易く受け入れる。
サンジのアナルは柔軟性があった。最初こそそれなりに痛がったけど、それでも切れることなく、軋みながらもすっぽりと包み込むように受け入れた。
ここも変化がある。襞は柔らかいが、中がいつにも増してきついような気がする。締め付けられるように狭く、狭い上に、腸壁が痙攣を起こしたように収縮していた。


――すごい

さすがのゾロも驚いた。自分のものに吸い付いてくるようだ。
「……ハ…ァ」
サンジの口から溜息のような息が零れた。その口は唾液で濡れている。
ゾロが呻った。
こんなに気持ちいいのに、終わってしまうのが、出してしまうのが惜しいと、それが残念でならない。
狙ったように前立腺を突くと、ますますアナルが締まった。具合はいいが、よろしくない。これ以上もちそうにない。
放つ寸前、『手を解くの忘れてた』と思い出したけど、視覚的には悪くないのでそのままにして、せっかくだからとその姿を眼に焼き付け、ゾロは吐精した。

それでもサンジは射精しなかった。
手を解き、ぐったりと力が抜けた身体を背後より抱きかかえ、背面座位へと体位を変えた。
挿入したままの状態で、萎えたペニスを掌に包んだ。手をローションでたっぷりと湿らせ、扱くとまた硬く膨らんできた。


「ア…ッ……ハ……」
身体を前に倒したまま、ゾロの動きにゆらゆら揺れている。ペニスがすっかり硬くなると、
「…てめ…好き勝手…しやがって…」
ぐったりと前屈姿勢のまま、サンジが呟いた。
「いいから、てめぇもさっさと出しちまえ」
「く…そ、後で…覚えてやが…れ……」
喘ぎながら憎まれ口を叩く。
面倒なので「わかったわかった」かるく返事したら、「2回返事しやがった」と、文句言いながら切なそうに身を震わせ、そんな憎まれ口ばかりたたく唇を塞ぐかのように、ゾロが指を2本入れるとサンジがそれを噛んだ。
だから剥き出しになった肩を噛む。しっとり温かい咥内を指で犯しながら、ひらひらとよく動く舌に指を絡め、唇を摘んでは、指をさらに奥まで挿入した。そして昂ぶったペニスを根元から数度扱き、下から深く突くと、身体を硬直させたままサンジが精を放った。

「んん――――っ…」

喉から搾り出すような声だ。そして尿道に残っているものを搾り取ろうと、ゾロはゆるっと扱きながら先をきゅっと絞った。身体が弛緩して前に崩れ落ち、それでもサンジの中はねっとりと纏わりついて離そうとしなかった。
「…も…う………終わりにすんぞ…」
付き合いきれないというサンジを床で仰向けにして、正面から挿入すると、サンジはゾロの額をパシッと叩いた。
「やめだ、やめ」
脚ではなく手である。腰に力がはいらないのかもしれない。その脱力した腰を引き寄せ、
「アホが。これからだ」
にやりと笑って覆い被さると、「…俺を殺すつもりか?」一瞬顔を引き攣らせて、「……チクショー、殺されるくれぇなら先にぶっ殺してやる」、死ねと甘い声で囁き、大人の時間は続いていった。










床の上でゾロが運んだ毛布にすっぽり包まって、ごろりと動いたら二人のの背中と背中が触れ合った。

「来年の創立記念パーティーは来るか?」
ひとりごとのようにゾロが呟くと、
「マジ?」
サンジがくるっと振り返った。
「皆に『恋人だ』って紹介してやる」
ゾロも振り返ってニヤッと笑った。

「……ナミさんや」
「おう」
「……ロビンちゃんにもか?」
「当たり前だ。喜べ、会社中の女にお前を紹介してやる」
サンジが腕の中に顔を埋め、ぼそっと呟いた。
「……いや、やっぱいい。なんか行きたくなくなった…」
「そうか、そいつは残念だ」
だがその口調は残念そうではない。





毛布の中で、もぞもぞ身体を動かしているうちに、仰向けになったゾロの肩、そしてうつ伏せになったサンジの肩がくっ付いた。
「それ、捨てとけ」
サンジが床にごろんと転がっている例のブツを、忌々しげな眼で見ながら顎で指示した。いくら気持ちよかったとしても、道具に玩ばれたようで妙に腹立たしい。未だ腹の奥はうずうずするし、好き勝手したゾロにも言いたいことは山のようにあるが、リベンジは忘れた頃にするのが効果的だろう。サンジは考えた。
「いいのか?だいぶ良さそうだったろ」
怪訝そうな顔をするのをみて、
「そうか?なら、消去されちまったカレンちゃんの替わりに俺が貰っておくとするか。これがあればてめぇなんか用無しだったりしてな」
ニヤッと笑い、すっと伸ばされたサンジの手よりも早く、奪い取るように掴んだゾロの手から投げられた物は、壁にゴンと当たって、ガッゴンと大きな音とともにゴミ箱の中へと消えた。












END


2006/5.5  2011/12.26 改稿