黄泉比良坂 1









空の底が抜けたような青だ。
天はどこまでも遠く、高く、地上の青をすべて吸いとった、宇宙の透けた青だった。








――サンジが死んだ

電伝虫で報せてきたのはウソップだった。
廻りの木々から洪水のような蝉の鳴き声に包まれた、そんな夏の路上でゾロは思わぬ訃報を受け取った。
「ゾロ、聞いてるか?」
込み上げる嗚咽を必死で抑えようとしているのか、いつもと声が違う別人のようで、タチの悪い悪戯電話がかかってきているようだ。
「聞いてる」
返事をすると、何故かあたりが急に静かになった。
耳に痛いほど響いてた蝉の声が、ひどく遠く感じる。
いきなり音が消えてしまうと、耳の奥でキーーーンと違う音が聞こえてくるのは何故だろうか。

「コックは何で死んだ?」


突如襲撃を受けた。殺気を完全に殺した見事な攻撃だった。一番の弱者であると敵が判断したのか、端からナミが狙われ、そんな彼女を襲った銃弾の数発がサンジの腹部に残った。
敵は倒したが、その時チョッパーが不在、すぐに駆けつけたものの既に手の施しようのない状態であったと、説明する電話ごしの声はやはり知らない誰かみたいに聞こえる。


「3日も…苦しんだんだ…、チクショー、チ…クショー…」
電話の向こうで泣いているのか、漏れる嗚咽はまったくの別人だ。
「で、ナミは無事なのか?」
「無事だが…、でも、話ができる状態じゃねぇんだ…」
自分を庇ってサンジが死んだとあれば、いくら気丈なナミでもその心痛は計り知れないものがあるだろう。
「そうか、ナミの為に死ねたんなら本望だろ、奴も」
「…ゾロ、おめぇ、よくそんな事が……いくら仲が悪……」
受信状態が悪いのかウソップの声がノイズでよく聞こえない。
蝉の声も全然聞こえない。
耳の奥が痛くなってきた。
「悪ィ、ウソップ。よく聞こえねぇ」
「すまん。で、おめぇもすぐに帰ってくんだろ?だよな?仲間が死んじまったんだ、おいゾロ、おい、聞いてんのか?」
念を押すようにウソップが何度も訊ねた。
「わかった、帰れるようなら戻る。そっちは頼む」
「え?おい、おい…、おいゾロッ!!」



そのまま電話を切って、子電伝虫を夏草の生えた路上へと置き、海に向って歩き始めると、また蝉が一斉に鳴きだした。
来た道を戻る。
目的地をイーストブルーへと変更した。
ゾロは故郷へと向かった。










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