COVALENT BOND 2








■六夜

きっちりと昨晩の続きから始まる夢、今まで経験したことなどないが、世間では良くあることなのだろうか。
暴れてる、コックが暴れて魚のようにびちびち跳ねて、こんなに鮮度がいいのを料理するのは意外と楽しいものだと知った。しかもコックが俺に料理されるとか、いったいなんの冗談だ?
なんて思ってると蹴りが飛んできた。
痛いが仕方ない。いくら夢とはいえ現実と同じで、自分の思うようにはならないんだろう。コックが嫌がってるからまるで無理やりやってるみたいで、本当に何から何まで自由にならない夢だ。
コックは強い。阿呆のくせに強い。力だけで押さえつけるのは困難である。だから少し大人しくさせる為に、俺はパンツに手を入れ、それを握った。勃っているだろうと薄々気づいてはいたけど、先がこんなに濡れているとは、まさに予想外だ。
俺もあれなのであまり人のことはとやかく言える立場ではないが、妙にいやらしい。
あの湿った温かい感触が、リアルで生々しい。
しかしいくら夢とはいえ、男の、しかもコックのあれを握って興奮するのは如何なものだろう。
最初は傷が見たいと思っただけで、その傷を見ているうちに舐めてみたくなったのでそのとおりに行動した。自分の夢だから躊躇いなどない。
そして傷を舐めていると変な気分になったので今度は胸を触ってみた。
すると指先に乳首が触れた。だからそれを弄んでというか、擦ったり摘んでいると、コックが身体をもぞもぞ動かして、人の夢で勝手なことするなとわけのわからない事をいった。
意味がわからない。いつも文句ばかりいう阿呆だが、そこはきちんと反論してから、ちゃんと無視した。夢の中でもこれは怒ってばかりいる。暴れる。笑っていれば俺も腹が立たないものを、だから俺はコックの股間を握ったわけだ。

こう順序だてて考えてみると、悪いのは自分だけではないのではなかろうか。
変な反応をする、この男も悪い。
このままあちこち触っていたら、この男はすぐに達してしまうような気がする。この感度から察するに、おそらくコックは早漏気味に違いない。
それはそれでかまわないが、俺はどうしたらいい。この昂ぶりをどう鎮めたらよいのか。
だが、これは現実とは違う、所詮は夢だ。痩せ我慢をする必要などどこにもないのである。

上の口か、下の穴か、少しだけ考えて俺は決めた。
下だ。
上は噛まれる可能性がある。たとえ夢でも噛まれればダメージはあるだろう。
次にとるべき行動について考える前に、無意識で体が動いた。
コックを草叢に押し倒し、後ろから首を押さえ、そして背後からパンツを毟り取った。







今日は波もなくて、とても穏やかだ。天気も上々、海軍も敵もいない穏やかな海域だった。
午後になって、ひとり船室でごりごりごりごりスリバチで薬を調合するチョッパー元へサンジがやってきて、妙にムスッとした顔でチョッパーの前に座った。
「なァ、眠れなくなる薬なんてのはあんのか?」
チョッパーは作業する手を止め、顔を上げた。
「え?眠れないのか?」
「いや、逆だ。眠れないんじゃなくて、眠れなくなる薬だ。興奮剤みたいなものでもあれば眠れなくなるかと思ってさ」
「寝たくなければ起きてたらどうだ?一晩くらい問題ねぇぞ。医者の俺がいうのもなんだが、すぐに薬に頼るのどうかと思うぞ」
「…だよなァ…。でもさ、何もしないで遅くまで起きてると、突然ガクッとものすごい眠気が襲ってきて、気づくと寝ちまってたりしてさ。…なァ、なんとかなんねぇかチョッパー?」
「話の内容がいまいち理解できないけど、寝ちゃまずいのか?」
「…まずい…、かなりヤバイ………つうか、貞操の危機?」
「テーソー?の?キキ?」
チョッパーが首を傾げ、サンジはガクッと肩を落としてたまま、その場を後にした。
甲板でルフィは大きなあくびをしながら釣り糸をたらし、ウソップはガチャガチャと何やら道具で遊んでいる。ナミは部屋に入ったままで、本を読んでいるのか、または海図でも描いているのか。ゾロは船尾でひとり鍛錬に余念がなく、ロビンはデッキで本を読んでいる。
メリー号の穏やかな午後のことだった。


■七夜

あれだけ頑張ったのに、あんなにコーヒーをがぶがぶがぶがぶ我慢して飲んだのに、またこの世界に入り込んでしまった。気づかぬうちに寝てしまったらしい。
本当に、何故こんな夢をみるのだろう。
昼間調べてみたけど、どの本にもこんな事例は書いてなかった。
夢占いや夢分析の本も読もうとしけどが、それはやめた。想像がつくからだ。
欲求不満。性的願望。
確かに不満はある。出費ばかリでお金が全然貯まらないことや、大飯食らいや大酒呑みのおかげでそっちにばっかり金がかかってしまうことなど、数え上げたらキリがないほど不満はある。
だけど性的願望は違う。こんなものを見たいと思ったことはない、断じてない。
あの二人に性的な欲望は感じない。これからだって感じない自信がある。
だからこれは何だろう。
何故アレとアレの、こんなモノを見なければならないのか。
眼を瞑ろうと思っても、瞼が閉じられない。いくら顔を逸らそうとしても、首も身体も動かない。
それ以上するな、見せるなと、声も出せないのである。
いくら夢とはいえ、これはどうしたことか。
できるだけ違う事を考え、気を紛らわそうとしても、眼の前の光景が邪魔をする。
生の脚とかお尻とか、指の動き、赤くなった顔、興奮した顔、否が応でも見えてしまういかがわしいもの。
そしてあの軽そうな桃の、実は中身があったことにかなり驚いた。もっと驚いたのはその使用方法だ。
この夢に音はない。
不自由で滑稽な箱庭で、ただひとつ救いがあるとすれば、この世界に音がないことだ。変な声を聞かずにすんでよかった。
どんな声かなんて想像したくないけど、想像できてしまうのがちょっと悲しい。
悲しくなったら泣きたくなった。泣きたくなったら涙が出た。
涙が出て本当に良かった。視界がうっすらぼやけたから。
ぼやけていても見えてしまうのが悲しいけれど。

あ、挿った。







今日も馬鹿みたいに天気がいい。突き抜けるような青空だ
昼過ぎのことだ。チョッパーがラウンジへ移動する途中、ナミに呼び止められた。
訊けばここのところ体調が悪いという。確かに顔色も良くないようだ。チョッパーは診察をすすめたけど、ナミはそれを断って薬だけ欲しがった。
「頭痛薬と、あと眠れなくなる薬とかないかしら?」
「眠れなくなる薬?」
チョッパーが小さく首を傾げた。
「デジャブかな?なんか似たようなことが…、それは置いといて、何で眠りたくないんだ?睡眠はとても大事なんだぞ。具合が悪いならなおさらだ。なにか理由があって夜眠りたくないのなら、少しでも昼間のうちに仮眠をとるとか…」
「そうよ、そうよね。うん、昼寝でもしてみるわ。天候は今のところ問題ないはずだから、後はよろしくね、チョッパー」
ニッ、と力なく笑って、ナミはまっすぐに部屋へと戻っていった。
頭の上に大きな疑問符をのせ、チョッパーがラウンジへいくと、そこにはテーブルに突っ伏し寝ているサンジがいた。
疲れているのだろう、起こさないようにそっと出て行った。
「眠れなくなる薬」、どうしてそんな薬に需要があるのか、不思議に思いながらチョッパーはそのまま甲板へと向かった。
ルフィが釣りをしている。顎が外れそうなくらい大きな欠伸をしている。
ウソップ工場がガチャガチャガチャ音をたて、甲板では鍛錬を終えたゾロが昼寝している。ロビンは物憂げに遠くの海を見ていた。
そんな長閑な午後のことであった。





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