蜜色ハニィ 1









近頃サンジはとてももてる。
島に着けば女の子に不自由することなく彼女たちとお茶の時間が楽しめ、八百屋のおばちゃんとちょいと世間話をするだけで売れ残りの野菜や果物が大量にもらえたりとか、ドラッグストアのおねえさんは試供品を豊富にくれたり、乾物屋のおばさんはお茶に饅頭に座布団まで出してくれる。
本人曰く、「アホか。全然いつもどおりだ」、とのことだが、廻りの認識は少し違った。
「なんていうのかしら、サンジ君ってあまり異性を感じさせないんだけど」
さすがに本人を目の前にして云わないけれど、これはナミの感想だ。
どれだけサンジからラブラブアタックを受けても、異性も有難みも感じていなかったらしい。
「そうね。彼女とか奥さんがいる人みたいな、そんな安心感があるわ。コックさんは彼女がいるのかしら?」
「サンジ君に彼女?ないない、いるわけない」
手を左右に振って、ナミに全力で否定されつつも、「女好きは全然変わらないけど、最近は何故か余裕のようなものが感じられる」、これが彼女らの共通意見だった。だから女が安心して寄ってくるのではないか、と。





ある島に辿り着いた時のことである。
1泊のみの宿泊時にサンジはゾロと同衾した。
今まで幾度となく仲間の眼を盗んでこっそりしてるものの、ベッドでそれに及ぶのは今まで一度もなかった。
島で宿に泊まることは何度もあった。でも二人きりになったことはない。ほとんどが船と同じ、男部屋と女部屋の2部屋、それしかナミは部屋を取らない。だから今回のように各々部屋をとってもらえるのは珍しい、というより初めてのことだった。

サンジはシャワーを浴びて、そのままベッドへと向かった。そのベッドには既にゾロが寝ている。さほどの時間ではないと思ったが、どうやら待ちくたびれてしまったのか、既にいびきをかいて寝ている。
せっかく気持ちよさそうに寝ているのを起こすこともあるまいと、サンジはあまり揺らさないようにベッドに腰掛けた。
このまま朝を迎えても、それならそれでもかまわないと思った。
理由は簡単だ。
妙に居た堪れない気分だからだ。
今更ではあるけど、こうして改まると、やはり男同士というのは恥ずかしいし、何やってんだ俺は、イカレてるにも程がある、と自分でもいまだに訳がわからない。
格納庫やキッチンで手軽に済ませるのは、『処理の為である』という大義名分があって、それで自分自身を納得させることはできる。
が、ベッドはどうだろう。
いかにも、ではないだろうか。まるで愛の営みみたいだ。
そもそも、せっかく上陸したというのに、何故レディでなく男とベッドを共にしなければならないのか等々、ぐるぐるぐるぐる思考の堂々巡りに、サンジはやけに苦く感じる煙草を揉み消し、部屋の明かりを半分落とした。
完全なる暗闇は昔からあまり好きではなかった。誰にも話したことはないけれど、眼を開いているのか閉じているのか分からない状態は、たまに不安を感じることがある。眠るのに邪魔な程度でなければ、灯りはあった方が安心するのは子供の時からの習慣だった。
サンジはゾロの隣にそっと潜り込んだ。
もしや新陳代謝がよいのか、この男は体温が高い。暑苦しい夏場を除けば、その肌に触れるのもさほど嫌ではないし、そしてルフィよりも多少寝相は良いので暴れることもなく、一緒に寝てもそう不快な思いをすることはさほどない。
呼吸にあわせ、ゆっくりと隆起する傷痕の残る胸、さらりとした湿りのない肌、自分とは違う筋肉を持つ力強い腕の、その心地よさをいったい何人の人間が知っているのだろうか。
ふと、そんなことを考えてしまい、それを打ち消すようにサンジはゾロに背中を向け、そのまま眠りについた。


ゴゴッ、自分のイビキの音にゾロは目を覚ました。
目が覚めた時、自分がどこでいつの間に寝てしまったのかわからなくなってしまう、これはよくあることだった。だけど、今日はいつにも増して、自分の寝ている状況がすぐに把握できなかった。
見慣れない天井と馴染みのない空気、ふと視線を横に向けると、そこに金色の塊が見える。
寝ぼけ眼で見ているうちに、それがコックのまあるい後頭部だということに気づいた。
ここでようやくシナプスが接続された。どうやら自分はこの男を待っていて、そのまま寝てしまったらしい。
薄い闇に浮かぶ髪はしっとりと、まるで蜂蜜のように見える。まだ濡れているからだろうか。
そんなことを考えながらぼんやり眺めているうちに、ゾロはあることを思い出した。こういう関係になった当初の頃のことだ。

慣れない行為はそれなりに苦痛だったのか、彼は時折短い呻き声を漏らした。顔を見てもとても気持ちよさそうには見えない。
が、苦痛を感じたのはサンジだけではなかった。ゾロだって痛かった。
何の知識もないまま、とりあえず挿れとけとばかりに、半ば強引に押し込んだのも多少問題があったかもしれない。
少し動かすたびに、「…っ、痛て、痛てて、い、い、痛ってえええええ!こ、こ、この…!」、罵りながら、ゾロを踵で蹴った。武器であるあの足で、これでもかというくらい背中をぼかぼか蹴られ、それでも萎えることなく遂行できた自分は、誰にも自慢できないが辛抱強い性格だと改めて思った。
話は戻る。実は別のところも痛かった。
あそこが痛い。
付け根が締め付けられるように、ぎちぎちに痛い。たかがアナル、されどアナル、括約筋という筋肉を侮ってはいけないのだとゾロは学習した。
お互いに痛みを伴った、そんな初体験ではあったが、慣れというのは恐ろしいもので、あれだけ文句ばかり云っていたコックが、たまにとんでもなく色っぽい息を漏らすようになった。
それは吐息のように微かに、鼻にかかったように甘く、ようするにダイレクトに股間に響く。えもいわれぬ艶がある。
ふと、そんなことを思い出していると、蜂蜜のような髪からほんのり甘い匂いがすることに気づいた。
シャンプーだろうか。同じ風呂で、同じものを使ったのだから、同じ匂いの筈なのに何かが違うような気がする。煙草のにおいとか体臭が加味されるのか。
蕩けるような蜂蜜。
そのひんやりした髪に鼻先を埋めて、背後から身体を抱きしめた。
掌で愛撫し、萎えた股間を包むように握ると、目を覚ましたのかビクッと身を揺らした。
ゾロは無言で胸部にある小さな尖りを押した。


近頃、身体のある部分がひどく感じることにサンジは気づいてしまった。
レディならともかく、自分の性感帯として今までまったく自覚がなかった場所だ。
そこを触られるとなんとも云えない気分になる。
ふと目が覚めて、気づいたらゾロにそこを触られていた。指の腹で軽く押すように転がされ、あるいは弾くように、または摘み上げられると、
「……っ…」
眠気は吹き飛び、身体が自然に仰け反ってしまう。いいように開発されていると思うと蹴り飛ばしてやりたいくらい悔しくもあるが、その刺激だけで勃ってしまうほど気持ちいいのは確かだ。


サンジの身体が反応を示したことにゾロは気を良くした。
今度は向きを変えて正面から、小さく堅く主張するそれを口に含んだ。舌で味わうように、そして唇に含み、あるいは軽く噛みながら。
同時にサイドテーブルに用意したオイルで指を湿らせる。その指をアヌスに押し当てると、その刺激に腰がピクッと跳ねた。
そっと襞の表面に触れる。その周囲を滑らかなオイルでマッサージするように撫で、また指を戻すと驚いたように襞がきゅっと窄まるが面白い。何度か繰り返すと、
「もういいから挿れろ…」、サンジが呟いた。


かなりもどかしい刺激だ。表面だけを撫で回され、思わずサンジは指を要求してしまった。だが、口にまで出して欲した指は第1関節ほどしか挿入されなかった。
その付近を撫でるばかりで、その指はほんの僅かな内部しか刺激してくれない。もっと、もっと奥へと、口よりもはるかに素直な身体が指を求めて動きそうになるのを必死で押さえた。
滑らかなオイルでもっと奥まで刺激して欲しい。なのに指はそれを与えてくれず、1本から2本に増え、3本になっても弄られているのは奥へ僅か1〜2pほどだ。
それの代わりのように、また乳首を強く吸われた。


コックの身体が震えている。
まるでもっと吸って欲しいといわんばかりに胸を突き出している。それに答えるように、ゾロはその尖りに唇を落とした。
白い胸に小さなふたつのスイッチ。強くやさしく吸いながら、アヌスに浅く指を抜き差しした。
こんな機会は滅多にないのだから、できるだけ焦らして思いっきり苛めてみたい。そして欲しいものは、ちゃんと口にすればいいのだとゾロは思う。
コックに言わせてみたいものだ。この生意気な口から、
「もっと」、「深く」、「奥まで」
「お前が欲しい」と。










NEXT