IN THE POOL 1








午後2時過ぎ、ゾロとふたりで学校のプールに行った。
「来るならもっと早くこい」、「何時だと思ってるんだ」、小言と一緒に先生から鍵を預かった。帰りに職員室の保管場所に閉まっておけと指示を受け、先生の気が変わらない内に更衣室へ向った。先生は早く帰りたいらしい。かなり迷惑そうな顔だ。夏休み中のプール開放は午後3時まで、だがこんな時間に来るヤツはほとんどいない。
もちろん、1人ではこうはいかない。ゾロと二人だから先生も生徒に鍵を託したのだと思う。
体育会系で、硬派のゾロは何故か先生方の受けがいい。
俺はというと、たぶんあまり信用されてないかもしれない。金髪はチャラついて見えるようだ。ゾロに言わせると、
「眉毛だ、眉毛。くるくるっ、と巻いた変な眉毛がいかがわしいからだ」
らしいが、そんなの本気にする訳がない。








8月ももうすぐ終わる。部活もなくて、たぶん学校に残っている生徒は殆どいないはずだ。
誰もいないプールはとても広い。こうして、この男と二人きりで此処に来るのは、あの夜と合わせて今回が二度目だ。
少し泳いだ後、プールの水底に身体をゆっくりと沈めた。
青いプール。
頭上でゆらゆらと水が光って揺れている。
このまま溶けてもいいと思うくらい、水の中は気持ちがいい。
俺は欲求不満なのだろうか。乾いているのは心か身体か。満たされないのはどちらだ。


プールの底まで照らす光を遮ったのはゾロだ。
上から覆いかぶさるように降りてきた。逆光で顔が良く見えなくて、ゾロの向うでは陽光がゆらゆら輝いている。
水の中で身体が触れた。
肩に、背中に腰に廻された腕。
引き寄せるように自分の腕でゾロの頭をかき抱き、啄ばむようなキスをして、吸って、しゃぶられ、じゃれるように舌を絡ませた。舌を差し出せばやさしく吸ってくれる。口蓋の上とか、舌の裏側。感じる部分をていねいに舐められ、痺れるくらいにゾロとのキスは気持ちがいい。

酸素を補給して再び潜る。
そしてまた水底で戯れているうちに、ゾロの手が俺の下半身をまさぐった。腰に回された手が、尻を水泳パンツの上から撫で、乳房のように揉みしだく。
お互いに固くなったモノをぎゅうぎゅう擦り合わせながら、ゾロは布越しに尻の裂け目から小さな窪みを探しあてた。
思わず腰をひくと強引に押さえ込んで、会陰部分を爪先で刺激した。陰嚢を揉まれ、アナルを布越しに指で突き刺す。呻いた俺の口から空気がごぼりとこぼれ出た。

再び水面へあがった。
潜るのをやめて、泳ごうとするのを無理やり水中に引きずり込まれた。水中に入るなりパンツの中に手を差し込んで、ダイレクトにそこを触ってくる。
ゾロの雄としての本能と欲求は自分より勝っているのかもしれない。
穴に挿れたい。ここに入りたい。挿れさせろと無言で迫ってくる。指を深くまでぐいぐいと押し込ませ、犯すように1本から2本と指の数を増やして中をえぐる。
それ自体はさほど痛みのある行為ではない。

ただ、怖い。
ここに受け入れるということは、ゾロに抱かれることだ。
俺はそれが怖い。


夜のプール。
あの時、貪るようなキスをした。腰を、熱くなったものをぐいぐい擦りつけて、訳がわからない内にお互い放った。だけど、ゾロは満足してなかったのだろう。
たぶん今日誘われたのもそれが目的だろうと、うすうす気づいてはいた。知りつつも、のこのこ付いてきてしまう俺は相当イカレてる。それなのに怖いのだから支離滅裂だ。


奥までグッと突かれ、また口から空気がこぼれでた。ゾロが酸素をおくりこんでくれるが、それじゃあ足りない。
胸をドンドン叩いて抗議した。すごく苦しい。渋った顔をしていたが、どうやら諦めたらしい。また水面へ上がった。
「次はねぇから」
勝負でも挑むような眼つきだ。呼吸も整わないまま、また水中に身体が沈んだ。
一気に指を深く差し込まれた。
さすがに痛かった。カチカチに固くなったペニスを腹に押しつけ、擦りながら、何度もえぐるように内部を犯され、呻きと共にまた空気がどんどんこぼれ出る。
耳の奥がキンキン痛む。
心臓の音がバクバクうるさい。
辛くて苦しくて逃げ出したいのに、何故かこの男にしがみついている。
空気が欲しい。それを求めるようにゾロの口を吸った。身体の奥から湧きあがるものが俺の自由を奪う。大きく激しい波が、身体ごと根こそぎさらっていく。


どこに残っていたのか、口からぶくりと空気がこぼれ、
ゆらゆらと、水面にのぼっていく泡を眼で追った。
きらきら輝く青いプール。
塩素の匂いとゾロの温もり。
その腕の中で俺は達した。








プールサイドが暖かくて気持ちがいい。
ごろりと寝転がって乾いた場所を探し、またごろごろとぬくい場所を探して移動した。そうしている内に、ゾロが近くに座っているのに気づき、踵でその背中を蹴った。
ついでにケツも蹴る。腰、向きを変えて太股、最後に頭の天辺に踵落としをしたらさすがに怒った。
「痛てえじゃねぇかッ!黙ってりゃボガボガ蹴りやがってッ」
「阿呆。文句を言える立場か?どの口で抜かしてやがる?てめぇは黙って俺に蹴られてりゃいいんだよッ」
「気を失ってた時のほうが可愛げがあった…」
「うっせ!ば〜か、ば〜か、ば〜か」、罵ると俺の足首を掴んで、足裏を舐めた。

「お前さ、足フェチだろ?俺の足を舐めると興奮するのか?」
ゾロが足の小指を口に含みながら少しむっとした顔付きだ。
「今度、俺の足でお前のチンコをこすってやろうか?すぐにいっちまうんじゃねぇの」
「いや。そこまでは望んでねぇ。変態じゃねぇからな」
馬鹿か、充分に変態だ。お前のその股間の高ぶりは普通じゃない。
「なァ、俺の足ってうまい?」
返事がないのをいいことに、更に言葉で煽った。
「足なんか舐められたって、ぜんっぜん気持ち良くもなんともねぇ。てめぇと違って変態じゃねぇし」

「でもよ、てめぇが俺の足を舐めてる姿はたまんねぇ」

「今度じゃなくてさ、今やってやろうか?てめぇの大好きなコレでいかせてやる」

足で済むならそれにこしたことはないと、ゾロの手から足を外してその股間へと移動させた。熱くて硬い物体を足裏で押すようにもむ。さっきは出さなかったようだ、まだぱんぱんに張り詰めている。足裏で撫でながら指先で刺激を与えた。
すると顔を歪ませながらゾロが俺をみて、笑った。

「失神寸前にいっちまうのって、気持ちよかっただろ?」

ああ、何かを持っていかれるくらい気持ちが良かった。

「俺の指を締め付けながらいっちまったもんな」

そんなのは知らない。

「お前がイク面を見て、俺もいきそうになっちまった。俺も酸欠で頭がぶっ飛んでたのかもしんねぇ」

いけばよかったのに。

心で返事をしている俺に、ゾロが自分勝手なことを言い続ける。日頃とは打って変わった饒舌さに驚いて、止めるのを忘れてしまった。そして足裏の熱に半分気持ちは持っていかれてる。
このまま、いけ。
そんなことを考えながら動いてる俺の足をゾロが手で弾き、

「全部だ」

怒ったような顔で、

「俺をすべて受け入れろ」

静かに言った。
傾きかけても夏の日差しは痛いくらいに身体を焼く。ゾロの視線とどちらが痛いだろうか。逸らすこともできずに、睨み合うようにお互いの眼を見た。
誰もいないプールの表面がゆらゆらと揺れ、遠くからカナカナと蝉の鳴き声。

「…ここで、か?」

「旧校舎で」

俺の質問に対し、やけに返事が早い。
本当にずるくて傲慢だ。










NEXT