星にねがいを 4








かさついた唇、その重なった唇を離すとナミの瞳が僅かに開かれた。が、それは恥らうかのようにすぐに閉ざされ、そして微かに開かれた唇に誘われて、サンジはまた自分の唇をそっと重ねた。
唇の隙間がいつしか舌が触れあうほどになって、二人の唾液が交わった。唇を唇でじゃれるように挟んで、そして優しく吸って、丁寧に愛撫したりと、なんだかんだしてるうちにいつの間にやら自分のほうが強く吸われていることにサンジは気づいた。
積極的だなァ、なんて内心喜んでると、覆いかぶさられ上から更に吸われて、仰け反るようにサンジの顎が上がった。その上に、覆うように唇が押しつけられてくる。
激しさに呼吸が少し乱れた。
そんな強引なナミの頬を撫でて、その手で耳に触れる。チリンと金属の音、ピアスを唇で弄び、啄ばむような愛撫して、するといつしかうなじを手で押さえられたような姿勢になって、唇はさらに激しく貪られ、サンジはついに息が続かなくなってしまった。
冗談抜きで苦しい。半ば逃げるように唇を離すと、
「おい?」
ナミが呟いた。
唾液で濡れた唇だ。
その口で、
「おい、なんでこんな事になってる?」
不思議そうに問われ、サンジは戸惑った。
乱暴な口調でなんでと聞かれても、どう説明していいのかわからない。
「まァ、いいか」
そういうとナミはサンジを乱暴に甲板へと押し倒した。床に倒れるやいなや、すぐさま覆いかぶさると素早く二人分のベルトをはずす。
「え?」
ふと気づいた時にはシャツは大きくはだけ、そしてまるで吸血鬼に噛まれているような愛撫をされたとき、サンジは緑色の短い髪を鷲づかみにして、

「…てめぇ…、ゾロか…?」

返事を待たずに、その脇腹に膝蹴りを放った。
辛そうな声でゾロが呻く。
が、驚くべき回復力と素早さでサンジの頭部を鷲づかみにしたかと思うと、そのまま甲板に強く叩きつけた。鈍い音がする。
「だああああああ!痛てぇぞこの野郎!ふざけんなあああ!」
サンジが怒鳴った。
「うるせぇ!それはこっちの台詞だ!」
「そんなことよりいつ戻りやがった!?…このやろ、ナミさんを返せ戻せ!!なんでてめぇなんかと……、ちくしょおおおおおお!オロス!」
涙目でサンジが怒鳴った。


いつものように男部屋で、大の字になって寝ていたゾロは、唇がむずむずするような不思議な感触に目を覚ました。
まるで風呂に入っているときみたいな、温かくて気持ちよくて、でも妙に変な感じだ。
そしていつしか身体の芯が発火してしまった。寝ぼけているのかと思ったけどリアルで、変だ、何事だと、頭の中はぐるぐるぐるぐる疑問符の嵐の中で大変なのに、身体だけはすっかりその気になってしまったという、ゾロにしても訳のわからない事態だ。


サンジがゾロを睨んだ。
「もういいからどけ!降りろ!ふざけんなクソッタレが!」
喚くサンジを冷たい目で見下ろし、
「別にふざけてるつもりはねぇが」
そういっては、
「残念だがそれは聞いてやれねぇ相談だ」
乱暴に自分のシャツを脱ぎ捨てるや、腕立て伏せでもするような姿勢でサンジの上へと覆いかぶさった。
――どうして服を脱ぐ必要があるのか?
不思議に思いつつ、それよりも気になってしょうがない疑問を優先した。
「…おい?…なんで、もろこしなんか入れてる…?」
服の上からなので余計そう感じるのかもしれないけれど、ごつごつと硬くて熱い物体が自分の股間に当たっている。
「は?もろこし?アホか。いいか、文句ならナミに言え。今まで一度も抜かなかったなチクショー…。ったく、あれは男の身体ってもんがわけってねぇ」
サンジの喉がヒクッと引き攣って、
「……え…えと」
声が掠れた。
「…まさか、よもや、それを俺で処理しようと…か…?」
するとそれがまるで返事だといわんばかりに首を愛撫すると、「つっ…」サンジの喉から呻き声が漏れてしまったけれど、呻いてる場合ではなかった。
「………無…理…だ…。いや、俺とお前じゃとてつもなく無理だろ?お前、頭は確かか?」
そもそもサイズが合わない、サイズどころか俺にもろこしは必要ない、無断で触るのはやめろ、だが断っても許可はでないと、必死で嫌がるサンジから身体を離すなり、ゾロはこれ見よがしの溜息を吐いた。

「ひとつ確認させてもらうが、てめぇから仕掛けたんだよな?」
青い目をじっと見る。
「ナミからするわきゃねぇ。そうだろ?」
否定も肯定も出来ずに、サンジは思わず視線をそらした。
「なのに今更四の五の抜かすとか、男らしくねぇにもほどがあんだろ」
そむけたその顎をくいと持ち上げ、
「俺の身体を、つうか、てめぇはナミをやるつもりだった、ようするに最初からその気だった、と、間違いじゃねぇよな?」
強引に自分へと向けて、
「いくら俺の身体でもナミがやらせてくれるとは思えねぇが。何を夢見てたかしんねぇがけれど」
そのまま股間に手を入れ、
「悪いこといわねぇから、俺で我慢しとけ」
半勃のものをその手に握り締めた。

確かにキスをしたのは自分である。
サンジは考えた。
だが、その身体まで抱きたかったのか、改めて考えればそうではないように思う。そもそもナミの身体は男で、いくら中身がナミだと、キスしたからといって、そこに性的な欲求があったかといえば疑問だ。
先のことは考えてなかった。これが正解のような気がする。だがゾロに理詰めで追い詰められ、気まずさに視線をはずしたのがまずかったか、サンジは反論のきっかけを失った。
キスはしたもののそんなつもりはなかった、そしてお前の欲求不満解消につきあうつもりは毛頭ない、微塵もないのだと、こんな当たり前のことが言葉にができないくらい内心では動揺していた。
股間を握られ、素直に反応してしまう身体の若さと節操のなさにサンジは流された。
返事がないのをゾロは合意と解釈した。
「大丈夫だ。無理そうならやめる」






剥きだしの両脚が大きく広がって、無防備に曝け出された股間が心もとないのか、サンジは僅かに身を捩った。
これは駄目だ。どうにも芳しくないのではないか。この格好はないだろう。いくらなんでもひどい。辱められてるとしかいいようがない。どうせなら、ひとおもいに後ろからサクッとやられた方がどれだけマシか。
なんて、考えて考えて、頭の中は眉毛よりもぐるぐるしている。
脳がオーバーヒートを起こしたのか、顔まで赤くなってしまった。
そんなサンジをチラッと見て、ゾロはその中心にあるものを自らの掌に納めた。そして、その手をゆっくりと動かす。
サンジがギュッと目を閉じた。
扱くごとに先から零れ落ちる透明な滴り、その雫がゾロの手の中で湿った音を立てている。顔をそむけたまま、いっそ耳をも塞いでしまいたい思いのサンジの、硬く勃起したものを扱きながら、雫を指先で送るようにアヌスへと運んだ。つぷっと、そして指が挿入されるや、サンジがひどくうろたえた様子でゾロに訴えた。

「……ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て…、待てってば」
どもりながら、
「…ちょ、だから、ちょっと落ち着けって…」
お前こそ落ち着けとゾロは思ったが、あえて口にはしなかった。するとゾロが何もいわないのをいいことに、
「…いや、あれだ、いや、それだそれ、それはやっぱいくらなんでも」
サンジが話し始めた。
俺はもろこしは嫌いではないが、好きかといえば別に好きではない。自分がコックだからいうわけではないが、セックスと食い物は一緒にしないほうがいいのではないか。女体盛を批判しているわけではなく、個人的にはありなんだが、ただもろこしはさほど好きではないだけで、ナミさんが食べさせてくれるのなら話は別だったり、矛盾してるようだがそもそも何が言いたいかといえば、もろこしに罪があるわけではないけれど…。
などと、もろこしについて長々と語る。

「お前……」
ゾロは呆れ返ったような溜息をはいた。ここまできて、なんたる往生際の悪さだ。こんな意味も含まれているのだろう。
「手を貸せ」
そういって、サンジの手首を掴んで、嫌がるのを強引に自分の股間へと持っていった。
「な?だろ?てめぇのとそんなに変わらねぇ。ごつごつもしてねぇ」
そして、
「このくらいのはいつも出てんだろ?」
ゾロが真顔で訊くと、
「いや、俺のはもっと慎ましい」
不満そうに唇を尖らせ、サンジは反論した。すると何故か気の毒そうな眼で、

「なら、怖えぇから嫌がってるのか?」

ゾロがサンジを見る。
怖いのかと問われ、怖いと正直にいえないサンジはぎゅっと口を閉ざし、ゾロを睨んだ。負けん気の強さがいろいろ彼の邪魔をする。
「ふん、てめぇがそんな玉無し野郎じゃねぇのはわかってるが」
そういってゾロはニッと笑い、
「俺もできるかぎり譲歩する。ハチ切れそうに痛くてたまらねぇが、てめぇだけ我慢させるわけにはいかなぇ。で、はちみつとバター、どっちがいい?」
サンジに問いかけた。
「え?」
意味が理解できず、首をかしげたままフリーズしてしまった男の返事を待たずに、指先で皿からバターをすくい取った。とろっとやわらかくなったバターを、そのまま指をサンジの中に入れた。
「ひぁ!」
小さな悲鳴をあげるのを無視して、今度はパンケーキに添えられたはちみつの入れ物を手にすると、それを微妙な角度になってしまったものに垂らす。
ビクッと震えるものを咥え、
「ひっ!」
変な声を無視して、指を動かす。
そして、黙々と指と口を同時に動かしているうちに、
「…この馬鹿が、こんなことに、食い物を使いやがって…」
切羽詰った声で、
「……っ、出る」
ぶるっと腰を震わせた。
「…出る出る出る、出るって、この馬鹿が、だからもう出…!」
気持ちがいいのだろう。
すっかりやわらかくなった襞を、指で数回強引に広げるとそのまま挿入した。

腹がいっぱいに埋め尽くされたような、そんな馴染みのない違和感とか、痛み、それに羞恥と、それでも気持ちいいのか、ずっと唸り続けているサンジの顔はもう真っ赤で、「いでで、いでで」と色気のない喘ぎ声とは裏腹に、紅潮した頬や濡れた唇が色っぽい。仰け反って喉を鳴らし、胸元まで鮮やかなピンク色だ。金色の髪がさらさら揺れ、それを見たゾロの喉がおもわず鳴った。
「……っ、…おいこら……まり…も」
サンジが呼ぶ。
「…痛かったらやめるって…言ったよな…?…いや、我慢できないわけじゃ…ねぇが…もうそろそろやめ時じゃねぇかと…、つうか、…痛てぇなんてもんじゃ…クソが…」
文句を言い続ける真っ赤な顔をみて、ゾロが笑った。声を出さずに笑う。
「…なんで笑ってる……?俺はケツが壊れそうなんだが、てめぇは頭でも壊れたか?」
ククッと喉奥で笑い、まるで圧し掛かるように上から抱きしめ、
「…いや、ようやく実感が湧いてきた。てめぇとやってるんだってな」
「…なにを今更」
「…悪くねぇ」
「…アホ、いいことなんかなにひとつねぇ…」
また低く笑って、
「この憎まれ口が…」
「…なんだ?」
それには答えず、奥を狙ったように突くとサンジの腰が震えた。
「……ち…くしょー………ふざけんな…っ!死ねっ!」
罵られ、それでも笑っているゾロはどことなくマゾ臭い。

その後、「死ぬ死ぬ、ケツが死ぬ」と尚も喘ぎながら、ゾロの手の中に放つ瞬間、
「あ…、あ…、マジで?信じらんねぇ……」
ビクッと体を強張らせ、
「もう死にてええええええちくしょおおおおお」
最後、怒鳴るように達した。
だがその辛そうな表情と、ピンク色に染まった身体だけは、壮絶にいやらしかった。





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