7days 4








部屋に食い物の匂いが充満している。
皿に盛られたものをゾロは無言で口に運んだ。旨くもないが別に不味くもない。ただ腹がいっぱいになるだけの食い物、酒で流し込むように腹におさめた。
隣に座っている男が口髭についた食いカスを無造作に拭うと、その腕で乱暴に目の前の皿をどけた。ガチッと金属のぶつかる音がする。
「けっ、旨くもねぇのに腹だけは膨れやがる」
食後に不満そうな表情だ。
「金なら余るくらいあるくせに、もっとましなコック雇えってんだ」
忌々しげにひとりごとをいう男にゾロは見覚えがあった。食堂などで何度か見かけたことがある。酒飲み特有の赤ら顔に突き出た腹、珍しくもない風体をした男は自分と同じにおいがした。流れ者の胡散臭さと、そして言葉に同じイーストの訛りがある。
ゾロは飲みかけの酒瓶を男に差し出した。
「だから他よりも賃金の相場がいいんだろ。胸糞悪ィ場所だがな」
男は自分のコップに酒を注ぐと、それを一気に飲み干した。
「ふん。飯よりはマシだ」
もう一杯、酒をなみなみに注ぎ、そのまま酒瓶をゾロに返した。
「驕って貰ってなんだが、俺に親切したって何もいいことねぇぞ」
「まだ食ってる最中なのに、隣でぶつくさ言われるとますます飯が不味くなる。ただそれだけだ」
ゾロが酒瓶の残りを口に含むと、
「おい」
男が声を落として話しかけてきた。
「お前知ってるか?あまり大きい声じゃいえねぇが、ここのオーナーは元七武海なんだとさ。ようするに海賊あがりだ」
七武海。名前だけは耳にしたことがある。
「へぇ。こんな変態商売だからロクでもねぇとは思ってたが、海賊時代に儲けた資金で此処を始めたってわけか」
「初耳か?」
男がニッと笑った。
「そうだ。間抜けなガキどもを二束三文で騙すように攫ってきちゃ、それでぼろ儲けしてやがる。薄汚ねぇ尻穴商売だ。海賊とどっちが性質わりぃか俺にはわからん。で、話はここからだ」
男がさらに声を顰めた。
「この島に、その海賊時代のお宝が、まだたんまり眠ってるって噂があんのを知っているか?」
あまり興味がない話題だ。ゾロは残った酒を飲み干した。
「嘘だと思ってんだろ?」
男がまたニヤニヤと笑いかける。
「何で俺らみたいのが高額で雇われているか考えたことあるか?ガキ共を逃がさねぇ為だとか、あまりにも嘘臭ぇだろうが。あんなガキめらが束になったところで何が出来る?」
「たかが酒2杯の礼で、そこまで俺に教えるのか」
男を横目で見ると、
「お前、海賊狩りだろ。ええ、ロロノアさんよ」
ゾロの眉がピクっと上がった。自分の素性を明かした覚えはない。
「ようするに、アンタは自分が思ってるより有名だってわけだ。いつか近づいてやろうと思ってたが、なかなか機会がなくてな。アンタ、いつもふらふらしてて何処にいるかわかりゃしねぇ」
男が立ち上がった。腰に掛けられた大きな鎌のような武器、鎖がジャラリと冷たい音を立てた。
「もしそれが見つかったら、情報料として俺に半分くれればかまわんぞ。まァ、誰でも知ってるくらい有名な噂だが」
ゲラゲラと大声で笑い、そのまま部屋を出て行った。


薄暗い廊下を通ってゾロは裏庭へと向かった。食後のひと眠りをするためだ。
その建物の出口付近で、背後から男に声をかけられた。
「…ったく。いつも何処をふらふらしてるんだ」
茶髪の男だ。そしてゾロを睨み付けると、
「一緒にこい。仕事だ」
有無をいわさぬ口調で、別の建物に向かって歩き始めた。
「ちょっと待て。俺は用事がある。他の奴にしろ」
その背中に訴えたが、男は振り返りもしない。ゾロを無視して足早に歩いていった。
「無駄な拒否はするな。命令だ。お前はいわれたことだけしてりゃいい」
ゾロが舌打ちした。
さして旨くなかったとはいえ、食後にする仕事じゃないのは確かだ。





窓がない白い部屋には、二人の男がいた。
灰色の髪をした長身の男と、ほぼ全裸に近い格好をした金髪の男だ。白いシャツの前がはだけている。黒い首輪と足枷、両腕を背後で拘束されたまま床に座っていた。
そしてゾロに気づくなり、青い目で睨みつけた。
「…またてめぇか」
関節を外されたことをまだ根に持っているのか、どう見ても好意的な目ではなかった。
「ベッドへ連れて行け」
灰色の髪をした男が、顎でゾロに指示を出した。
「そんくれぇ自分で…」
そう言い掛けて、自ら立ち上がろうとしたサンジの腰に腕を回し、ゾロは放り投げるように強引にベッドへと転がして、
「………っ。投げ飛ばすこたァねぇだろ!自分で歩けるっていってんだろうが!」
怒鳴り、暴れる身体を背後から絡めとった。
「これも俺の仕事らしい。契約にゃなかったがな。お前も仕事だろうが。お互い、嫌なことはとっとと終わらすに限る」
そして後から身体を抱くように、その両脚を強引に割った。
自分の足を使って大きく広げ、両手で膝を広げる。ゾロの位置からは見えないが、全部曝け出したような格好だ。
ふと、ゾロの視界に赤いものが飛び込んできた。柔らかそうな金色の髪、その陰に隠れた耳がひどく赤かった。
「さすがに2度目は話が早くて助かる」
灰色の髪をした男が自分の手にしている物を茶髪の男に渡した。すると茶髪は露骨なほど眉を顰め、
「…おい。また俺かよ」
顔を歪めて、自分の手にあるものを見た。細くて長い管だ。
「いいか、ちゃんと押さえてろ。ヘマしやがったら承知しねぇ」
男がその股間に手を差し込むと、サンジの身体がビクッと小さく跳ねた。
「…もう蹴らねぇから押さえつけるのやめさせてくれ」
返事をしない男に向かって訴えるが返事がない。
「…なァ、話聞いてんのか。もう暴れねぇって…」
「へっ。それを俺に信じろってのか?また突っ込まれたらどうなるかわかったもんじゃねぇ」

灰色の髪をした男がベッドに腰掛けた。そして大きく開かれた股間を、まるで書類でも確認するような目で、
「問題ない」
そして、
「今度はそう痛くないはずだ。最初はお前が暴れるから。お仕置きみたいなもんだ。大人しくしてりゃだんだん気持ちよくなる」
その一点を冷ややかな目で見た。
「それに、もうお前には刺さっているじゃないか」

ゾロの眉が僅かに上がった。
終了後、栓をするようにされた金属棒と革の細いベルト。今もされているのか、もちろん確認などしていないが、男の口ぶりからすると、まだそれが装着されている可能性は高い。
「痛い痛くねぇの問題じゃねぇんだ。さっさと覚えて、ここで客を喜ばせるようになってくれりゃ、俺らの仕事も早く済む」
男の腕が動いた。
後ろに指をいれたまま、刺さった棒をくるくる回してその中を弄る。そして一気にその棒を引き抜くと、
「――っ!」
サンジが呻いた。そしてそれを排除するかのように脚が動く。おそらく無意識だろうが、かなりの脚力だ。まともに食らえば吹き飛ぶかもしれない。茶髪の男がビクッと後ずさった。阻止しようとゾロの筋肉が強張る。
「…みろ。だからてめぇは信用できねぇってんだ!」
茶髪が大声で喚くと、その金属棒をトレーに投げ捨てた。
カチンと金属同士がぶつかり、冷たく硬質な音がする。棒がころころ転がって、そして透明な液体が絡みつくように、きれいな銀色のトレーを濡らした。

「おい。ちゃんと押さえてろ」
茶髪が忌々しげに舌打ちした。
「もうそれなりに広がってんだから痛くねぇはずなんだ。だいたいションベンすっときは爺さんに抜いてもらってんだろうが。そのたびに暴れてるんじゃあるまい。お前、ほんとは痛いんじゃなくて怖いんだろ?ここを弄られるのが」
男が管を手にすると、ゾロの視界からそれが消えていった。男の股間へ吸い込まれていく。
「…くっ」
ゾロの前にある身体がいきなり強張った。全身が激しく拒絶している。
両脚が別な生き物のように動き、それを抑えるためにゾロは全神経を自分の手足に注ぎこんだ。半端ない力だ。
「おいおい。まだ腹ん中まではいってねぇぞ。…っとに堪え性がねぇ野郎だ」
茶髪の男が手を動かすたびに、腕の中の身体が敏感に反応する。
かすかに呻き、その身を震わせた。

「ここらへんだな」
声と同時に、
「う…あっ」
逃げるように引き攣る脚だけが、まるで別な生き物のような動きをする。
「…このっ」
筋力で押さえつけるゾロの額にうっすら汗が滲んだ。
この前は関節を外した。ちゃんと戻しては置いたが、おそらくまだそのダメージは身体に残っているだろう。見た目は白く細いただの脚だ。
ならば、これが平常だったら、それはどれほどの脚力なのか。
腕の中の身体はまだ抵抗している。
脚がまた無意識で動いた。
「あっ……」
金色の髪がゾロの肩口にかかる。
髪が滑るように流れて、わずかに上気した白い頬と顔が見えた。
ふと、男と眼が合う。
青い眼がゾロを見上げ、何かを訴えるように、または睨むように、一瞬だけ視線を絡ませ、それはすぐにきつく閉ざされた。
肩がかすかに震えている。


「中はどうだ?」
灰色の髪をした男がもうひとりに問いかけた。
「悪くねぇ、つうか、実は前回より反応がいい」
微かに笑った。
「くっ…っ」
呻きをあげる男の首が、うっすら色づいてきていることにゾロは気づいた。背後から抱きかかえる身体はずっと震えている。金色の髪の隙間から覗く赤い耳。そこからだんだんと色が滲んで、身体全体に広がっていくようだ。
「あ、あっ!」
首と胸が仰け反った。ゾロの肩にもたれるように頭が置かれ、まだ無意識に閉じようとする脚を腕力で押さえ込む。
そして一際甲高い声を発したかとおもうと、その身体が激しく震えた。
「…つまらんほど仕上がりが早い」
ゾロの頭上から低い声がした。どんな顔しているのか想像が容易いくらい、抑揚がなく感情がこもっていない、冷たく表情のない声だった。

「これからも出させないつもりか?」
意図せずに、疑問がゾロの口を付いた。
余計な口出しをするつもりはなかった。だが、これからもずっとこんな状態ならば、別な意味で辛いのではないかとふと考えてしまった。別に同情のつもりで言ったわけではない。
灰色の髪の男が、長い指先をサンジの胸に滑らせ、はだけたシャツをさらに広げると、
「可哀想か?」
低く笑った。
「ならば」
その胸の肉芽を摘んだ。
「ここで出せるように仕込むとしよう」
「…いっ!…やっ!」
突き刺すような痛み。ギリッと潰すように強く摘まれ、サンジの身体は激しくそれを拒絶した。
「あっ!う、ああ!」
身体を揺すって痛みを退けようとするが、男はそこから指を離そうとしない。右から左へと交互に責めたて、ギュッと押し潰してから男はふいに力を緩めた。
「……っ」
痛みから解き放たれた場所が、じんと熱をもって疼く。男の指が腫れあがったものを撫でた。
「……あ?」
赤く発熱した肉芽を、指の腹で掠め取るように愛撫する。腫れ上がったその先端を軽く転がして、ゆっくりと周囲を撫でながら弄った。
「うっ…」
呻きが、その喉から吐き出される息が、荒い呼吸が、いつしか甘さを含んだ啼き声に変わっていく。
シャツの間で指先がどんな動きをしているのか、震える身体から伝わってくるようだ。ゾロは視線を腕から灰色の髪をした男に移した。
無表情だった顔が、その冷たい表情が、まるで微笑むように緩んでいるのが見えた。

「俺の指を締め付けんな、クソガキ」
「おおいに結構だ」
ゾロの腕の中の身体が強張った。ビクッと震えて、
「あ、あああ!や、やめっ!」
激しく身を捩り、それから逃れようと足掻く両脚にゾロの筋肉が硬直した。驚くほどの力だ。
「すげぇ締め付け。どうでもいいがあんま強く弄ると千切れっちまうぞ。そしたら減給くらいじゃすまねぇんじゃねぇの?」
茶髪の男が顔を上げた。
「確かに。だからこれでもセーブしてるつもりだが。もしかすると心配してくれてるとか」
男が冷ややかな目で笑うと、
「俺まで一緒に減給されんじゃねぇかとおもってな。すげぇ心配してる。だからもっと抑えてくれ」
茶髪の男は自分の指先へと、意識的に神経を傾けた。出来るだけ余計な感情は殺して、目の前の身体の奥を弄る。早く仕上げなければ。
思い出したくもないことが頭を掠めた。
随分と前の話だ。子供の顔は思い出せない。顔も年の頃も、髪の色すらまったく記憶にない。だが耳を劈くような甲高い悲鳴と、そしてゆっくりと顔を上げた男の唇が紅をつけたように赤く、その赤に濡れた唇が楽しげに裂けていたのは、うんざりするほどよく覚えている。
商品を傷物にした調教師に対して、どんな懲罰があったのかは知らない。此処にきて間もない頃の話だ。
その所為かどうかはわからないが、この男の調教は商品に触れようとしない。指示はするが口だけで極力手は出さずに、調教するにも指先しか使用しないということに、いつしか気づいてしまった。
最初の日、金髪の男の頬に唇で触れるのを見た。
規約違反だとその場は咎めた。そういう行為は認められていない。ようするに、同僚はこの男を気に入ってしまったらしい。そう、そういうのは、本当に滅多にないことだからだ。
それでも、彼なりに自制しているは確かだった。


ひゅ―
短く喉が鳴った。
与えられる刺激にだけ反応するのか、身体はすっかり脱力してしまい、生まれたての動物のように震えている。最初の頃とは比べ物にもならない有様だ。ゾロは腕の中の男をベッドに置いた。
「もう俺は必要ねぇだろ。それでも心配なら普通に脚を縛り付けておけばいい。あんたのことを蹴ることもねぇはずだ」

閉ざされた眼とは対照的に、開いたままの唇から掠れた喘ぎ声が漏れている。シャツの隙間から覗く乳首は赤く腫れて、僅かに血が滲んでいた。
「なら、今日はここまでとしよう」
灰色の髪をした男は身体を離す前に、その傷ついた肉芽を覆い、長い指の隙間で包んだ。
髪と同じ、冷たい灰色の眼。その眼から感情を読み取るとこは難しいが、楽しんでいる、愛おしんでいるといった手つきだ。
「…うっ…ぁ」
サンジが仰け反って身を捩り、甘さを含んだ声で呻くと、
「それじゃ嫌がってんのか誘ってんのかわかんねぇぞ。客にゃとんでもねぇ変態がいるから、壊されねぇよう気をつけたほうがいい。余計なお世話かもしれんが、あまり煽るな」
茶髪が口端だけで笑った。あきらかに眼は笑っていない。
新しいスティックを尿道に突き刺すと、ビクッと身を震わせた。そしてゆっくりと何度も抜き差しているうちに、腰がゆうるりとうねるような艶めかしい動きをした。男の動きに、腰を突き出すようにして、気だるげに身を震わせている。
「…ん…っ」
「ハハ。やっぱ感じてんじゃねぇか。な、全然痛くねぇだろ?気持ちいいんだよな?そうやって素直にしてりゃ、っておい!手ぶらで行くんじゃねぇ!こいつも連れてけ!」
部屋を出ようとするゾロにむかって、男が大声で怒鳴った。
そして体液で汚れたシーツにサンジを無造作に包んで、
「丁重に扱え。淫らで凶暴なお姫さまだ」
そういうなり、今度は引き攣った声で、
「ヒャハハッハッ!!」
嘲るように大声で笑った。

肩に担ぎ上げて部屋を出ようとすると、ゆっくりと閉まりつつある扉の隙間から話し声が聞こえた。
「今日から導尿するよう伝えておけ」
「マジか?勘弁してくれ。あれは手間がかかる。しかも仕込めるとは限らねぇし」
少し甲高いのは茶髪の男だ。
「お前にやれとは言ってないだろう」
「だからァ、時間の問題だっていってんだ。次回のプレビューはもうすぐだぞ。中途半端に仕上がったらどうすんだ。まさか薬でも使うつもりか」
「アレはあれで楽しいと思わんか」
「不味いスープの向こう側ってか?やめてくれ、首がふっ飛ぶ」
不機嫌そうな茶髪を嘲笑うように、ククッと低い声が扉の向こうに消えた。





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2010/01.14