これは恋ではない
五月晴の青い空。
羊のような白い雲が、ぷかりぷかりと、ひとつ、ふたつ。
青空甲板でサンジは甘い息を漏らした。
「あ、んん…」
鼻にかかった声の発生元を、ゾロは指先でむにゅっと摘んだ。
「いでで、何しやがる…」
「なんで甘ったるい声なんか出してる?いつもそんな声出さねぇくせに」
「そうか?そうだな、サービス?」
そういって、
「離せってば。摘むのはやめろ、ボケ」
ゾロを睨んだ。
「誰もいねぇから、せっかく人が気分を出して煽ってやってんのに、サービスし甲斐がねぇ」
「そんなサービスはいらん」
それよりもと、ゾロは身体を起こしてサンジの腕を引いた。
「今度はおめぇが上になれ」
すると、
「俺が上か…」
面倒そうに、渋るサンジを半ば強引に自分の上へと置いた。
「かったりぃ…」
お前が上だろうと下だろうと動くの俺だ、と思ってもゾロは口には出さない。
「…全部入っちまうから、腹が…ちょっと苦しいというか……」
挿入しながらサンジが小さく呻いた。
阿呆め。だからいいんじゃないかと、当然ながら心で思うだけだ。
下から突き上げるように動くと、天に広がるのはどこまでも青い空、ひとつふたつと、やわらかそうな白い雲。
ゆさゆさゆさゆさ揺れる、とうもろこしに似た、金色の髪。
「…顔が、赤い」
ゾロが呟くとサンジが不思議そうな顔をした。
「…俺?そりゃ、運動してれば顔くらい赤くなんだろ……」
違う。
ゾロは心でサンジの言葉を否定した。
運動してるのは俺であって、お前ではない。
それなのに、何でお前はそんなに顔が赤い?
その疑問は口にされることなく、サンジのシャツを開いて胸を撫で、柔らかい尖りを親指で押した。
揉んでからぎゅっと押しつぶして弾く。と、微かに呻き声を上げ、身体が大きく前へと、ゾロの上へと覆いかぶさるように崩れた。
上から抱きしめられた形になり、ついゾロは訊いてみた。
「お前、俺のこと好きか?」
身体の重みと温もりが心地よい。
「…ん?誰が?」
「お前が」
「誰を?」
「俺を」
すると2秒考えて、「…何をいまさら」と呟き、「嫌いに決まってる」そういってから言い忘れたように、「ムカつくなんてもんじゃねぇぞ」付け加えた。
「どこが嫌いだ?」
「俺のことが好きかとか、聞く男なんか虫唾が走るったら。レディならともかく」
「他は?どこが嫌いだ?」
臀部を両手で掴み、掌で大きく左右に広げて、下から突き刺すと、サンジの身体がびくんと震えた。
腹巻
役立たず
甲斐性なしの大酒のみ
馬鹿毬藻
寝腐れ毬藻
毬藻
毬藻
クソ毬藻
どこが嫌いかと何度も訊いて、「毬藻、毬藻」と言い続け、 激しく突き上げるたびに、サンジはハッハと犬のような短い息を吐いた。
ゾロは少しだけ後悔した。この体位じゃないほうが良かったかもしれない。
誰もいない船で、せっかくの青空で、ならば自分のものを根元まで銜え込んでいる様を観察できる体位がよかったと思ったけど、上からぎゅうぎゅう抱かれて、これも悪くないと少しだけ考え直した
「で?てめぇは俺のどこが嫌いだ?」
サンジに問われて、ゾロは3秒考えた。
憎まれ口、減らず口
女好きで足癖が悪い
ぐるぐる眉毛のクソコック
コック
コック
コックと3回言って、
「おめぇのケツ」
一瞬眼を見開き、そしてサンジが仰け反ってゲラゲラ笑った。
おいおい、笑ってんじゃねぇぞ。響いて気持ちいいだろうが阿呆め。
もちろん、ゾロは心で思うだけだ。
「最初のアレ、もう一回サービスしてみろ…」
ゾロが耳に囁きかけるように呟いた。
「…や、今は…余裕がねぇ…無理…」
ならば仕方ない、と、下から激しく責めたてると金色の髪がゆさゆさ揺れて、辛そうに小さく呻いてからサンジが放った。
ゾロの頭を腕できゅっと抱え、達したばかりの身体が緩まないよう、彼は力を抜かずにいる。
おい、これもサービスか?
なら俺が出すまで緩ませんじゃねぇぞ。
気合を入れるように、サンジの尻を平手で一発叩き、ゾロは低く呻いて放つ。
白いひつじ雲が、ぷかり、ぷかり、ぷかり、ぷかりといつの間にやら増えている。
ゾロが酒を取りに行って、戻ってきてもサンジは甲板で大の字のまま煙草をふかしていた。
「ちんぽぐれぇ隠せ」、とゾロに服を投げられて、
「…あ、もう風呂に入っから」、だるそうに返事した。
白い煙がすっかり消えて、サンジは身体を起こすと服を手にそのまま座り込んで、ゾロを見て真剣な顔で言った。
「俺は知ってのとおり、てめぇのことが前から嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで大嫌いなわけだが、嫌いすぎたのか実は訳が解からなくなっちまった。これってもしかすると」
愛なのか?
愛なのかと問われ、 仰け反ったまま酒を飲んでいたゾロの口から、盛大なアルコールの飛沫が空に吹き上がった。
きらきらきらきら、酒の飛沫の中に、七色の小さな虹が浮かんだ。
一瞬だけ現れ、すぐに消えてしまった酒の虹。
「すげぇ、見たか?虹ができた」
サンジが暢気な声で笑うと、
「…ゲホッ、知るかボケ…」
ゾロは濡れた口元を腕で拭った。
それでも空には、ぷかり、ぷかり、ぷかりと白い雲。
END
2006/4.13 2011/12.26改稿