してよ、してよ








ロロノア・ゾロからすれば、それでも頼んでいるつもりだった。

「いちいち文句を言うな」

「おめぇはしゃべらんでいい。口だけ開けとけ」

「ためしにやってみろ」


するとサンジの人相がみるみる悪くなって、

「…てめぇ、もしやそれで人にものを頼んでるつもりか…?ふざけんじゃねぇぞ、この大戯けがァーーーーーー!!」

怒鳴った。が、これでも二人はセックスにおける前戯の最中である。





ゾロはフェラチオというものの経験がない。
今まで誰からもして貰ったことがないし、それに対して別に需要も感じていなかったが、サンジとそういう関係になって、行為のときに見え隠れするピンク色の舌や、唾液に濡れた唇や、湿って温かくヤニ臭くて、でも気持ちのいい口の中に、自分の舌や指で触れるたびに思うようになった。
「こいつの口の中に突っ込んだら、どんなに気持ちがいいだろう」、そう考えるようになった。
すると、ずきんずきん股間が疼くので、率直に口に出してサンジにそれを要求した。

サンジも女性からフェラチオをしてもらったことがなければ、当たり前だがやった経験など一度もない。
それを眼の前の男から要求された。
ケツだけじゃ飽きたらず、フェラまでしろという。
レディからしてもらった事もないことを、何故男である自分がよその男にしなくてはならないのか、当然であるがサンジは納得がいかない。
自分はコックである。
そんな不埒なモノを口にして、味覚障害でも起こしたらどうしてくれると、断固たる拒否をした。





ロロノア・ゾロは島に降りて、ログが溜まるまでの自由時間に、女を買いにいった。
手頃な娼館を選んで、「できれば金髪がいい。オレンジに近い赤毛の女は却下だ」、それなりの希望を伝えて女を抱いて、その彼女からそれをしてもらった。
初めてのフェラは気持ちよかった。さすがにプロだからか、舌とか手の動きとかとても上手かったし、何よりも動かなくていいから楽だ。
その帰り道、偶然サンジと出会った。
買出しを済ませ、ひとりで街をぶらついているところにばったり出くわして、そしてゾロはサンジを手短な宿へと誘った。



先にサンジが風呂に入り、出た後ゾロにも風呂を促すと、
「いや。俺は入ってきたからいい」、それを断った。
「いつ?何処で?」
怪訝そうな顔をするサンジに、
「ついさっきだ。なんて名前の店かは知らねぇ」
そう返事すると、彼はそれっきり口を閉ざしてしまい、ひとり黙々と煙草を吸い続けた。


「おい」
返事がない。
「おい?」
もしや聞こえなかったかと、もう一度声をかけてみたが同じだった。知ってて無視を決め込んでいる。ぷかぷかぷかぷか咥え煙草で、ゾロからそっぽ向いたままだ。
「おいってば!返事ぐれぇしろ!」
力ずくで身体を引き寄せようとすると、いきなり顔面にパンチが飛んできた。

「てめぇは…」
なにやら怒っている。
「てめぇはふざけてんのか…?」
「何がだ?」
ゾロは訳がわからない。そんな彼に正面から、
「何がじゃねぇ!!レディを抱いたんなら俺を誘うことねぇだろっ!!」
血相変えて怒鳴った。そして、
「まさかプロのおねえさまじゃ物足りなかったとでも抜かすつもりか?それとも大剣豪様は真性のホモになっちまって、男じゃなきゃ勃たなくなったとか?遅漏だから嫌われたのかもしれんが、なんにせよ、レディを抱いた後に俺を誘うなんて、お前は本当に本当に、ほんっとうに失礼な野郎だ!」
ゾロからすれば、どっちが失礼なんだとつっこみ入れたくなることを言われた。
頭から湯気を吹き出し、カンカンになって怒っている。
ゾロにしてみれば言われっぱなしも癪に障るし、殴られたのも悔しいが、もろもろを口で説明するのはとても面倒なので、そのままベッドへ突き飛ばした。仕返しは後でたっぷりしてやろうと思う。
押し倒したまま、無防備な湯上りローブを開いて、その股間に顔を近づけた。
そして風呂上りの、萎えて、湿っていて少し冷たい、ほのかに石鹸の匂いしかしないソレを口に含んだ。

「え?な、な、な、なにしてるんだ……?」
サンジがひどく慌てた。
「ちょ、ちょっと待て、待て、待て、待て、待て、何だそれ!?」
暴れようとする腰をがっつり押さえて、含んで、舐めて、しゃぶって、咥えた。
「せっかく身体で覚えたから、おめぇにしてやろうと思っただけだ」
「…いや、頼んでねぇけど…?つうか男はそんなの覚えなくてもいいんじゃねぇの…?」

実は、ゾロの学習能力の高さは意外と定評がある。というか、頭でなく身体でものを覚えるタイプだ。
そして、自分がさっきされて、気持ちの良かったことを、全てサンジにしてみた。
色素の薄いソレを含み、強弱つけて絞り上げる。焦らすように舐めて、先だけ弄んでみたりと、いろいろやっているうちに最初は引き剥がそうと掴んでいたゾロの頭を、サンジの手がいつしか軽く押しつけるようになった。
途中でクッションをサンジの頭の下に置いた。
――何でクッション?
不思議に思っていると、「この方が、おめぇの顔がよく見える」、そういってゾロは睨むように下から見た。
やはりこの男は変態なのだと確信しつつ、恥ずかしいやら気持ちいいやらで、サンジは変な声が出てしまった。
股間に毬藻が生えていいて、その光景はたまらなく変だ。でもそれは気持ち良くて、ぬめりと温かさが痺れるほど心地よくて、自分の手とはまた違った変則な動きに 、「んっ」、「あ、っ…」とか妙な声が唇から溢れ、嫌な意味で止まらなくなってしまった。顔はずっと見られたままだ。
恥ずかしいわ身の置き所はないわ、なのに気持ちいいわで、彼の頭の天辺からもわっと湯気が立ち昇った。

「この…。何で俺の顔なんか…」
問えば、
「おめぇのチンコなんか見ててもつまらん」
真顔で返事され、サンジにしてみれば突っ込みどころ満載なのだが今はそれどころではない。
「…っ……出る。……も…それはいいからっ」
股間から引き剥がそうと、緑色の頭を両手で覆った。するとゾロは手の動きを早め、きゅっと絞り上げてから喉奥まで咥え、それを数度繰り返した。
腿の付け根が強張って、
「あ、っ」
呻き、押し付けるようにしてビクビクンと腰を揺らし、そのままゾロの咥内へと精を放った。


「…っ、これに吐き出せ」、ゾロにティッシュを渡すと、
「いらん。飲んじまった」、そういって、口元を腕で乱暴に拭った。
「はァ…?…いや、馬鹿かてめぇは!んなの飲むなっ!!」
怒鳴るも、
「口に入っちまったもんは仕方ねぇ」
「…はァ…?そ…ういうもん…なのか……?」
としか、サンジは言いようがない。


さて問題はこれからだ。人からしてもらったことは、自分もしてやらねばならないのか。自ら望んだことではないにしても、こういう場合どうなんだろう。サンジは考えた。
ここら辺がサンジがサンジたる所以である。律儀といえば聞こえはいいが、見方によってはおつむが少々弱く思われても仕方がない。
なんにせよ、わざわざこちらから申し出ることもあるまいと、無視ししていたらやはり言われた。

「てめぇの番だよな?」

自分から勝手にしたくせに。頼んでないのに。しかも、たった今おねえさまにして頂いたばかりのくせに。しかも自分だけ。
言いたいことは山のようにあったが、サンジはそれを我慢した。自分だけ先に気持ちよくなってしまったという負い目からであるが、これまた実にサンジらしい行動である。彼はたまに我慢のしどころを間違ってしまう。



ロロノア・ゾロのブツは凶悪だ。
改めて間近でみると尚更である。
触ってもいないうちから微妙な角度で勃っている。ふぅ、おもわずサンジが溜息を漏らすとその息でぴくぴく動き、その可愛げの欠片もないものに、サンジは男らしく無言で挑んでいった。
彼は頑張った。
慣れないことを、慣れないなりにも工夫してやってみた。が、口から溢れそうになるそれが何というか、ひどく息苦しくてサンジの喉奥から声が漏れた。
「…ん、……」
ぴちゃ、と唇から湿った音がする。
「…っ…ふ……」
鼻からも息が漏れ、途中でサンジは気づいた。
これはもしかすると、いかがわしい声に聞こえるのではないだろうか?
そんなつもりではないのにと、ひとり脳内で言い訳して、ふと訊いてみた。
「…・・・気持ち…いいか?」
「いや…」
一呼吸おいて、
「下手だ」
ゾロが返事した。
「…クソが」
ここまでやって俺がやってるのにと妙に腹が立ったので、サンジは頑張った。
いくら苦しくても喉奥までそれを深く咥え、裏筋を丁寧に舐めては、たまに歯を使って亀頭を刺激したりいろいろやってみた。
頭を覆うゾロの手が、もっと動けとリズムをとる。
サンジにしてみればそれどころではなかった。
苦しいし顎はだるいしで、こんなの好きで咥えているわけじゃないので、ただひたすら早く終われと思いながらやっているだけだ。
それと嫌でも視線が自分に突き刺さってくる。
見ている。
咥えているその口、濡れた唇、そして動き、それが咥えられているさまを、ゾロがずっと見ている。
喉の奥にあたっては嘔吐しそうになり、ぐっと我慢してると眼の前がじわっと滲んできて、嚥下できない唾液がだらだらと顎をつたっていった。


ゾロは大きく肩で息を吐いた。彼は今フィニッシュへと向かおうとしている。
自分はサンジのものを飲んだけど、それはただそう選択しただけのことで、さすがにそこまで強要するつもりはなかった。ちゃんと外へ出すつもりだった。だから頭を掴んで引き剥がそうとしたら、どうしたわけかすぐに抜けずゾロは少し戸惑った。タイミングがずれた。予想外に吸い込みが激しかったのか、微妙な状態ですぽんと抜けて、思わずゾロが「…うっ」と呻いた。

――今のは何だ?

驚いた。プロ顔負けの気持ちよさだ。
今まさに放たれようとしている精液が、喉奥の吸い込みによって放出が加速され、冗談じゃなくマジで腰が抜けたかと思うくらい気持ちよかった。
そしてサンジはケホッと喉を鳴らし、ゲホゴホッと咳き込んで、
「……っ…は。はは、俺も飲んじまった。ザマミロ」
上気した頬に涙目、そんな顔で不敵にもニッと笑った。
口のまわりをてらてらと体液で濡らし、青い眼を潤ませたその表情が、ゾロのツボを押してしまったようだ。
そのあと全身を喰われ、そして最後に、
「まあまあだ。俺がいつでも練習台になってやる。覚えておいて損はねぇ」
こんな勝手なことを抜かしたけれど、へろへろになったサンジはすぐに文句を返す気力すらなかった。 とりあえず後から文句はいったものの、怒りがゾロに届いている気がしなくて、腹立たしさのあまり蹴ったらそのまま喧嘩になった。



それからというもの、メリー号における二人のセックスに、アレが加わった。
解禁になった、というか、一度でもしてしまえば抵抗やためらいは少なくなる。そして、 下手だ下手だと行為の度に言われて、
「アホか。下手なヤツにやらせて、てめぇは楽しいんか?俺は楽しくな…」
言い終わる前に口を塞がれては、また頭のてっぺんから食われた。
サンジはゾロのスイッチが理解できない。



ある日のことだ。
「おめぇはいつまでたっても巧くなんねぇ。だからというわけじゃねぇが、いいか良く聞け。猛烈に下手だから、絶対、絶対他の奴にはするんじゃねぇぞ」
俺だけにしろ。そうゾロに念を押されて、
「また訳のわかんねぇことを…。だいたい他の奴って誰だ?ルフィか?もしやウソップとか?まさかチョッパーじゃねぇよな?なんで俺が奴等にそんなことしなきゃ…」
またまた変なボタンを踏んでしまったらしいサンジは、返事の途中でまた喰われた。





欲するものは、まず自分から与えた方が手に入り易い。
そして、時間とともにピントがぶれてしまうものが世に中にはある。動物と同じで、すぐその場で躾けないと、伝わらないことがままあるという話。











END


2006/4.20  2011/11.11 改稿