※3行でわかる簡単設定
パラレル
サンジは保健室の先生。ゾロは元生徒。年の差5歳
ふたりはできている






暗いところでまちあわせ





「今戻った」
ちょうど夜10時を回ったときだった。サンジからケータイに電話が入り、ゾロは自転車に乗って夜の学校へと向かった。
シャッターの降りた商店街を抜け、窓にまだだんらんの灯りがともる住宅地を走り、坂道を一気に上って約10分で辿り着いた。2年前に卒業したとはいえ、3年間も通った高校だ。夜だとしても、たとえ迷子の自覚はなかろうと、さすがゾロでも迷うことはない。
裏口から敷地に入ると、自転車置き場の明かりの下に男の姿が見えた。
「迷わずにこれたんか」
「迷う?何のことだ?それより、なんでこんなとこに呼び出しやがった」
夜の学校には当たり前だが誰もいない。ましてや春休みで学校は休みだ。
「書類をまとめるのに足りねぇ資料があってさ。こっそり忍び込もうかと。それに、もしかするといいもん見られっかもしんねぇ」
ニッと笑った。

サンジは養護教諭、いわゆる保健室の先生だ。3年前の春に新卒で赴任してきたサンジと、まだその当時生徒だったゾロの付き合いも、今年の6月で丸3年になろうとしている。
1月の半ばからサンジは研修の為に約2ヶ月近く不在だった。そしてやっと帰ってきたかと思うといきなり電話してきて、しかも夜の学校にゾロを呼びつけた。

「いいもん?」
ゾロが期待を込めずに聞き返すと、サンジが急に真面目な顔になった。
「この学校ってさ、七不思議とかねえの知ってたか?」
学校の七不思議。どこそこの階段が一段足りないとか、あそこの鏡がどうした、なんとか室から夜になると云々といったどこの学校にもあるただの噂話だ。
ゾロはもともとそういうことに興味がない。だから、そんな噂がこの学校にあったかどうかの記憶はあまりないが、実はひとつだけ覚えていることがある。
七不思議のひとつ。ナミ先生のパンツは見えそうで見えない。あんなに短いスカートなのに、何故か見えない不思議なパンツ。
こんなつまらないことを覚えているとは――
ゾロは小さく溜息ついた。記憶を無駄に使っているような気がする。
「七不思議ってどこにでもあるよな、フツーは。だけどこの学校にゃそれがねえ。どういうことかわかるか?」
件のパンツ、話していいものかどうか。それを言えば高確率で話題が逸れるだろう。いかんせんナミで、しかもナミのパンツだ。ゾロが躊躇っていると、
「ここにゃ本物がいるからだ」
サンジが声を潜めた。


「…おい、何だそのツラは。俺の話信じてねぇな」
「信じろってのが無理だ。本物が出るならそれこそ噂になんだろ。そんなの一度も聞いたこたァねぇぞ」
「阿呆め」
そのまま校舎に向かって歩き出した。
「紛い物だから面白半分で噂になるんだ。本物はしゃれにならん。以前にある怪奇事件が隠蔽され、厳重なる緘口令がしかれたって古参の先生から聞いた。だからこの学校は夜間の行事とか合宿とかねぇんだとさ」
ここに勤務して3年足らずのお前が知ってるくらいだ。そりゃどんだけ緩い緘口令だと突っ込みいれたくて口がむずむずする。
「どうせそれも噂だろうけどな」
器用にも小さな金具ひとつで通路の鍵をこじ開けた。
「だが幽霊が出ようが化け物が出ようが、俺は資料を取ってこなきゃなんねぇ。明日郵送しなきゃなんねぇから今夜中にまとめねぇと。しかもその資料がばかでかい」
サンジは駅からそのまま歩いてきたらしく車がなかった。荷物持ちが必要だったらしい。






夜の校内は物音ひとつしない。
廊下に面した窓がわずかに明るいだけだ。月も出ていないのか、やけに夜が暗かった。
「今夜は新月か?やけに暗れぇな」
サンジが先を歩いていく。暗くて長い廊下。先は真の闇に溶け込み、それは黄泉へと続く道のようだ。
その暗い廊下を歩いていると、何故かゾロの耳が鳴った。キーンと耳の奥で、甲高い音が反響する。突然の耳鳴りと同時に足元がぐらり歪み、廊下がまるで生き物のようにどくんと脈打った。
思わずゾロの足が止まった。
赤黒く染まった廊下、それは冥府に漂う血の池だ。そこから何かが生まれる。
床から湧きあがった無数の卵。ざわざわと蠢き、形を成すまえにぐにゃりと崩れていった。
ゾロの背中を悪寒が走った。
サンジが聞いたという話はあながち嘘ではないのかもしれない。今までそういったものに縁がない自分でさえ見えてしまうもの。皮膚がぴりぴりと警戒を発している。
少し先を歩くサンジの足元で、大きな肉色の卵が生まれた。ひどく禍々しい色だ。ぬめりとした泡状の膜に覆われ、何かがそこから出ようと蠢いている。
「…おい」
まさか気づいていないのだろうか。あんなにもハッキリと見えるものを、まさか気づかないわけがない。
「しかし今夜はやけにあったけぇ。まだ3月なのに、やっぱ温暖化かよ」
息苦しそうにネクタイを緩めると窓に顔を向けた。
暖かいというよりも、空気がやけに生ぬるく気持ちが悪い。腐臭まで漂ってきそうなくらいだ。
サンジの足元に生まれた卵。ぷつっと膜が破れ、何かがずるりと這い出てくる。ゆっくりと身を捩りながら次第に形を成していった。
ゾロは息を呑んだ。

夜の廊下で生まれでたもの。それは無数の粒が集まった集合体だ。
ずるり、ずるりと、生々しい肉色と黒い粒が闇の生き物として地を這いずる。

「おいっ!」

大声で呼び止めると、
「何だ?」
金色の髪が揺れた。
「どうした?」
立ち止まった足元では、また異界のものが誕生しようとしてる。サンジが呼びかけに振り返ると、
「便所でも行きたくなったんか?」
脚がそれを踏んだ。

ぱふん

そう聞こえたような気がするが、もしかすると気のせいだろうか。
その脚で無造作に踏まれたものは、

ぱふん
ぱふん
ぱふん

まるで泡が弾けるように、ぱふんぱふんと消えていった。
「何ぼさっとしてる」
声をかけられ、ゾロはふと我に返った。辺りを見渡せば、いつの間にか廊下は元のままだ。先程の禍々しさはもう何処にもなく、いつもの場所がそこにはあった。
ゾロは首を捻り、思わず目をごしごし擦った。
これは目の錯覚か。または幻覚か。まさか夢でも見ているのかと自分の頬を抓るよりも早く、サンジにそこをギュッと摘まれた。
「…いっ、痛でぇ!なにしやがんだ!」
「寝ぼけてんじゃねぇよ。なんだそのツラは。狐に化かされたみてぇなツラだぞ」
サンジが呆れ返った顔でゾロを見た。





「保健室じゃねぇのか?」
階段の踊り場でゾロはサンジに訊ねた。
「生物室だ。ちょっと借りるだけだし、明日には返すから問題ねぇんだが、なんであんなにクソデケェんだ?」
その階段にある窓。その窓から何物かが数体、目をぎょろぎょろさせて中を覗いているが、あれも幻覚だろうか。ゾロは考えた。もしかすると外にある樹木がそう見せるのかもしれない。
キーキー、ギギギ、ギギギ。硝子を引掻く嫌な音がする。真っ黒で枯れ枝のような手足、細く何本もある手足はまるで巨大な蜘蛛だ。だが枯れ枝のような手足でなく、あれはただの枯れ枝なのだ。
ギギギ、ギギギ、ギ、ギ、ギ。その枝が動いているのはおそらく風が出てきたからに違いない。
ゾロは見て見ないふりをした。





生物室へと向かう廊下も暗かった。
ゾロの目はもうすっかり闇に馴染んだが、どうにも馴染まないものもある。例えば。
いつからか、自分達の後ろをボールが付いてきてることに気づいた。どす黒い血のような色をしたボールが、ころころころころ転がりながら付いてくる。
最初に気づいたとき、それはずっと遠くにあった。次に思い出したように振り返るとそれとの距離が近くなっていた。階段もポンポン昇りながらついてくる。
さっき振り返ると4〜5m後ろにそれはいた。
もう振り返って確認するつもりはないけれど、なんにせよボールなら問題ないだろうとゾロは考えた。あれに目鼻がついていたら立派な生首だ。ずっと付き纏われてるようで気分は悪いが、一見ボールのようならば勘弁してやらないこともない。
ボールのようなといえば、アレに似たようなのが前方から転がってきたことがある。職員室の前を通りかかったときのことだ。
ゾロが思うに、アレはボールよりも生首に近かったと思う。何故ならば毛が生えていたからだ。その生首ボールをサンジが蹴飛ばした。
どうやら意図的ではないらしい。サンジはズボンについた小さな虫を追っ払おうとしたらしく、脚を振り上げた拍子に、生首が闇の中へ吹っ飛んでいった。
「お前、それわざとか?」
ゾロが訊ねた。もしや天然を装い、気づかぬふりでそうしているのかと思ったからだ。だが、
「わざとって?虫を追っ払っちゃまずかったんか?」
そう答えるサンジの目に裏はなさそうだった。

もしかすると、いやもしかしなくても、この一連の出来事は気のせいじゃないのかもしれない。ようやくゾロは気づきはじめた。
そしてこの男はものすごく鈍いのかもしれない。霊感の欠片もないくらい、どうしようもなく鈍い。
ゾロは考える。自分も霊感なんて呼べるほど大層なものは持ち合わせていないが、さすがに気のせいだけでこれ以上自分を納得させるのは無理だ。無理がありすぎる。
「てめぇで聞いといて返事なしか?このハゲマリモ。なんか言え」
そう言いつつサンジの脚は、またボールのような生首を蹴飛ばしていた。飛んでいく様は限りなくボールに近いがあきらかに生首だ。蹴られて痛そうな顔をするボールなど見たことがない。





生物室までもう少しというところで、いきなり廊下が明るくなった。といっても照明がついたわけでなく、すっぽりと雲に隠れていた月が顔を出しただけだった。
「お。月がでた」
サンジが窓に顔を向けた。
月明かりが廊下にクッキリとした窓を映し出し、教室の壁にふたりの影が並んでいた。その影が、自分の影が何故かひとりで勝手な動きをしていることに気がついた。
手足がバラバラである。というよりも何故か踊っている。
もちろん知らんぷりをしていたが、突然ひとつの影がもうひとつの影の尻を撫ではじめた。
ゾロはギョッとした。自分の影がサンジの影の尻を撫でているではないか。
サンジの影は「やめろよー」みたいな仕草でゾロ影を押し退けようとして、だがゾロの影は「ヘッヘッヘッ」と声が聞こえそうな薄笑いをうかべ、執拗にその尻を撫でているのだ。まるでエロ親父だ。サンジの影は「やめろってば、んもーやだー」といった様子でくねくねと身悶え、嫌がっているのか喜んでいるのかわからない。

ドゴッ

いきなり大きな音がして、壁にぽっかりと穴があいた。サンジが驚いて振り返ると、
「…お前なにやってんの?びっくりすんだろうが!てか学校の壁に穴なんか開けてんじゃねぇよ!」大声で怒鳴った。
「ありえねぇ…」
ゾロが憮然とした表情で、
「お前のリアクションもありえん。あんなに可愛げあってたまるか」
口をへの字に曲げたまま壁を睨みつけた。
「はァ?寝惚けてんのかこのヤロ。ぼっかり穴なんかあけちまって。お前、自分がやったとか言うんじゃねぇぞ。何で夜中にとかなって俺の責任問題になっちまう」
俺に迷惑かけんなよなーと言いつつ、サンジは穴を無視して、また歩き始めた。
ふたつの影は驚いたように一瞬動きが止まったものの、また踊ったり仲よく手を繋いだり挙句はチューしてラブして、いちゃいちゃいちゃいちゃと、サンジは相変わらず何も気づく様子はなく、ゾロはその廊下を通り抜けるまで、壁に穴を3つ開けた。





生物室の鍵をサンジが開けた。
もちろん鍵などもってない。通用口同様に開けようとしたら、なかなか思うとおりにいかず、最終的に鍵部分を壊した。イライラして癇癪起こしたといってもいいだろう。
「鍵を壊してんじゃねぇ。大事なもんだろうが、つーかてめぇの学校の備品だろ」ゾロが指摘すると、
「壁に穴開けた奴がいうか?まあ俺が思うに、ここの鍵はオスなんじゃないかと。だから開かなかったんじゃねぇかと。通用口の鍵はありゃメスだったな。俺だからかもしんねぇが、パカッと簡単に開いたもんな」
パカッと。両手を開き、ジェスチャー付で『パカッ』を繰り返すサンジを見ると、何処からつっこみ入れていいのか迷うほどだ。

「お、ブルック。今夜も骨骨しいな」
サンジが生物室に置いてある人体標本に声をかけた。本名かどうかは定かでないが、彼の愛称はブルック。誰がかぶせたのか、ヘッド部分はファンキーなアフロで、非常に背が高いのが特徴だ。
サンジが指先でブルックの頭を突くと、アフロヘッドをゆらゆら揺らし、カタカタカタカタ顎が鳴った。


「これだ」
サンジがどこからか大きな筒のようなものを探し出してきた。何に使うのかさっぱりだがバカデカイのは確かだ。
生物室を出るなり、ゾロが何度も耳穴に指を入れた。
「痒いんか?」
サンジに聞かれたが別にそういうわけではない。何処からかヘンな声が聞こえるだけだが、それを口にするのは躊躇われる。ただ、
ビンクスの酒を届けにいくよ――
聞いたことがない歌が聞こえた。
ヨホホホホホホホホ
陽気でヘンな笑い声が聞こえてしまっただけだ。
あんな間抜けな幻聴があってたまるものか。アホ臭くて認めてやる気にもならんとゾロは眉間に皺を寄せて、部屋から出た後も不機嫌そうに耳を掻いた。





「帰るんじゃねぇのか」
ゾロは前を歩く男に声をかけた。もう用は済んだ筈なのに何故か出口に向かおうとせず、サンジの足は別な場所へ行こうとしている。
「ん?ちっとだけな」
そういって、サンジは保健室へ行った。

明かりのないはずの室内、うっすら明るいのは月が出ているからだ。白い壁と白いカーテン、部屋全体がまるで海底のように青く感じる。
サンジはいつもの椅子に腰掛け、くるりと回転させたかと思うと今度はベッドへと向かった。
白いシーツやカバーも青白く光り、そのベッドへサンジはダイブするように飛び込んだ。
シーツに顔を擦り付ける。
小さく硬い枕を抱く。
「…ひさしぶりだこの匂い。妙に懐かしいぜ。なんかようやく帰ってきたって気がする」
そして、
「……疲れてんのかな俺。すっげ落ち着くというか…」
小さく呟き、身体をごろりと横にしたかと思うと、サンジは片腕を揚げた。その腕がゆっくりと伸びて、
「こいよ。此処じゃヤんねぇけどな」
仰向けになった身体を無防備にさらし、腕を差し出してゾロを呼んだ。その上へと、覆うようにゾロは自分の身体を重ねた。

上は黒い薄地のコート、その下はもう春物のスーツだ。生地がやけに軽い。背中に手を回し、スーツとシャツをたくし上げ、その隙間から手を入れると温かい肌に触れた。
そして腰を強く抱き寄せると、サンジの喉から熱い息が吐き出された。
懐かしい匂いだった。
煙草と肌とそのシャツと、いろいろ混じったのがサンジの匂いだ。その煙草で唇は少し荒れていて、乾き気味な唇と違って中は熱く、舌を絡ませているとじわっと唾液が溢れてくる。
息をひとつ吐き出すと、サンジはそのままゾロの肩に顔を埋めた。腕を肩から首へ、そして短い頭髪を掌で覆い、ゆっくりと髪を撫でた。

保健室はまるで部屋全体が深海のようだ。月光がどこまでも青い。
そんな中で、黙って目を閉ざしたままの男は確かに疲れているのだろうとゾロは考えた。閉ざされた目蓋、そして頬に、月が青白い影を落としている。心なしか呼吸も浅いようだ。
いくら研修とはいえ、2ヶ月近くなんの連絡もしてきやがらなかったくせに、といった不満はいまさらいうつもりはない。
消毒薬臭いこの場所で、この男の何かが癒されるのならそれはそれでかまわない話だ。
この場所でヤるつもりがないなら、それもしょうがないことだろう。
そんなことよりも。
カーテンの向こうで揺らめく幾つもの影とか小さな手。
天井の四隅に棲み付く黒いもの。
または電源が落ちているはずのパソコンからぬるりと這い出てくるもの。さては壁から出ようと蠢くもの。またまた床は血の池で、おまけに頭にでっかいたんこぶ付けた生首までころころ転がって、周りは物の怪で大賑わいだ。
ゾロは唇でサンジのこめかみに触れた。かすかに脈打っているのがわかる。そこから耳へ、そしてその耳朶を唇で挟むとサンジが切なそうな声と息を漏らした。

――こんなに身体は敏感なのに。

ベッドに這い上がろうとする黒い枯れ枝を、足の爪先でグイと押し戻し、

――何でこんなに。

耳から頬を伝い、また啄ばむように唇を触れ合わせ、そしてその枕元を這う毛の生えた黒い触手を掌で思いきり叩き潰すと、サンジが驚いた顔で大きく眼を見開いた。

――鈍すぎる。

ゾロは心でぼやいた。
これ以上ことをするには、保健室はあまりにもギャラリーが多すぎる。







サンジと資料を載せてゾロは自転車をこいだ。
「家まで送ってくれんのか?意外と優しいつーか、珍しーこともあるもんだ」
サンジが意地悪そうに笑う。だがゾロは反論しない。当たっていると思うからだ。
ストレートじゃないけど意外と優しいのは我ながら事実だと思うし、珍しいというか物好きなのも確かだからだ。物好きでなければこの男とは付き合えない。
ゾロが黙っていると、背後からぬぅっと顔を覗きこんできた。
「何で黙ってんだ?まさか自分のこと優しいとか勘違いしてねぇだろうな」
よもや物好きだなんて考えてんじゃないだろうと、エスパーサンジがゾロの顔を見た。
「別にわざわざ送るわけじゃねぇ。どうせ俺も一緒にいくからついでだ」
「…てめぇも?」
ゾロが頷くと、
「…俺は今夜やらなきゃならねぇことがあんだが」
「俺もだ」
サンジが怒鳴った。
「たわけっ!俺のやることとてめぇのじゃ天と地ほども違うわ!一緒にするな!つうか、ヤんねーし!俺は忙しいんだ!」
「ヤるヤるいってんじゃねぇよ先生。外だぞ。しかも夜だ。声が響く」
「…こういうときだけ先生かよ」
「どこでならそう呼んでもいいんだ?ベッド?」
「殺す。てめぇにだきゃいわれたくねぇ。俺の夢を壊すつもりか」そういって、サンジは小さく溜息ついた。
「…明日までに終わさなきゃなんねぇってのに。少しは年上を労わろうって気持ちはねぇんか…」
ゾロは思い出した。3月2日はもうとっくに過ぎているではないか。
「そういや、もう25になったんだっけか?」
「クソ思い出した。てめぇ、誕生日だってのに電話もしてきやがらなかったな」
「2ヶ月もの間、1回も連絡よこさねぇ奴が何を抜かす」
「電話欲しかったのか?まさか寂しかったとか?ハハ、そんなにかまって欲しいんか。20になってもまだまだガキだなてめぇは。ケツの青いのとれたかよ。いつになったら俺に追いつくんだ?」
ゾロの耳にそっと息がかかる。サンジが囁きに似た声で低く笑った。





水銀灯の明かりが夜道を照らす。
その下を、3月の夜風を切って自転車が走る。

サンジのマンションに行ったらば、まずは風呂にはいろう。
自転車をこぎながらゾロは考える。
あの忌まわしいものをシャワーで洗い流し、さっぱりしたところで身体の中を酒で清める。そしたら仕事がどうとか、明日までにアレが云々と喚くであろう男をポーンとベッドに放り投げよう。そんでもって、あのアホみたいな金髪をぐりぐり触りまくってぐしゃぐしゃにしてぎゅうぎゅう抱いたりして、少しでも2ヶ月分を取り返そう。時間がないというのなら、30分、いや15分でもいいのだから。
癒しなどゾロからすればしゃらくさい話ある。癒されてたまるかとさえ思う。だけど、あんなヘンなものばっかり見せられた後なら、それが2ヶ月ぶりであるならば、そんなガラじゃないけれど、たまになら癒されてやってもかまわないと、ゾロはひとり小さく頷いた。


夜空の月は、雲に隠れたりまた顔を覗かせたり、またまた雲に隠れたりして忙しい。
そんな気まぐれな月明かりと、水銀灯の白い明かりを自転車が切り裂いていく。
カーブだろうと減速なんかしない。チャリを思い切り倒し、細いタイヤがどんな悲痛な悲鳴をあげようと、ゾロは容赦なんかしない。黄色に点滅している信号を曲がったとき、後ろでサンジが「ギャッ」と悲鳴を上げた。
「どうした?」
「ビニール袋が顔に飛んできた。クソでっけえ蛾と勘違いしちまったじゃねぇか。驚かせやがって」
そんなサンジにゾロが問いかけた。
「お前、あそこでなんか見たか?」
「なんかって、幽霊?」
サンジがゲラゲラ笑った。
「まさか本気にしたのか。俺の耳まで届くような緘口令だぞ。ゆるゆるじゃねぇか、アホくせー。いるわけねぇよ幽霊なんざ。いたらマジで怖ぇし」
そういって、今度はケケケと笑った。
ゾロは無言で自転車をこいだ。高速でペダルをこぎながら、アレの話をしたらこの男はどんな顔をするだろう、ビニール袋の比じゃねぇぞこのヤロー、なにがいいものだ、とんでもねぇモン見せやがって、等々いろいろ考えながら、何回通ったかわからないマンションを目指した。
眠りについた家や街路樹、そして生ぬるい夜風も全部吹き飛ばす。二人と大きな荷物を載せた自転車は、猛スピードで夜の街を走り抜けていった。






END

2009/3.14 千腐連さまに投稿。





お三方からコメントを頂戴しました!


フカ:みえる人ゾロ
玉:こわいこといっていい?
フカ:え、、、な、なに
きぬ:言うな(ぼか
玉:これさ。ゾロが必死で家まで帰り着いて、
きぬ:黙れ(ぼか
フカ:うん
玉:ついたよサンジ、って
きぬ:言うなよぅー!!!
玉:振り向くと
きぬ:いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ
フカ:、、、
フカ:きぬさん、悲鳴早過ぎ
玉:乗ってるはずのサンジが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
きぬ:きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ
きぬ:やーめーてーえええええええええええええええええええええええええええええええ
きぬ:きーこーえーなーいーいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
フカ:服が溶けて、裸になって抱きついてた、とか?
玉:え
玉:そんなえろい展開に。
きぬ:首がないとか?
きぬ:のっぺらぼうだったとか?(わくわく
フカ:なんでそうまた怖い想像をっっ
玉:やーーーーーーめーーーーーてーーーーーーぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
きぬ:きゃっきゃっ
きぬ:自分で言う分には怖くない
きぬ:人から聞かされると怖いから、先に言ってしまおう
玉:(∩゚д゚)アーアーきこえなーい
きぬ:それそれ(笑
きぬ:(∩゚д゚)アーアーきこえなーい
きぬ:きゃきゃ
フカ:このゾロはさ
フカ:実は普段から結構みえる人なんじゃないの?
玉:なんかそんなかんじっぽいね
きぬ:しかしなんかこう…この学校のさあ
きぬ:色々いるわけじゃない?
きぬ:怖いもんが
フカ:うむ
玉:おう
きぬ:なんか…かわいいのよね
きぬ:グロテスクなのもいるけど
きぬ:なんか憎めない
フカ:あの廊下のぷちぷちするやつ、、、
フカ:無限ぷちぷちみたいだ、って思ったわ
きぬ:生首、蹴られて涙目だし
きぬ:ぼよんぼよん弾んでくし
玉:あの廊下のプチプチは
玉:ちょっと
玉:怖いのとは別の意味で
玉:ぞわわっとしたわ
きぬ:やめろばかたま(笑
玉:そんな無限プチプチがあったら
玉:あったら
きぬ:あったら?
玉:あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、想像したらぞわわってなった
きぬ:だったら想像すんなよ(笑
フカ:永遠に取り込まれるんだよ
フカ:無限ぷちぷちの罠から抜けられなくなるんだ
きぬ:で、晴れてめでたく学校に巣くう魔物の一員だな<無限ぷちぷち
玉:うおお、腕がチキン肌
フカ:あのさ。ちょっと思ったんだけどさ
玉:なに
フカ:実はサンジは、果てしなく霊感が無くてみえないんじゃなくて
きぬ:ん?
フカ:むしろ、魔王的存在で、皆が恐れ多くて
玉:おおお
きぬ:おおおお
フカ:姿を見せていないってのない?
玉:あれだよ、光自身だから闇が見えないんだよ
玉:天使なんだよ!
フカ:あー天使ね
ききぬ:つかさつかさ
ぬ:魔物が大好きななんかフェロモンじゃないけど、なんかなんか出してる人間てのはどうかしら!
きぬ:魔物があわよくば、って狙うようなさ
玉:なんかってなに?ちんこ?
玉:ちんこだしてる人間?
玉:変質者?
きぬ:しねばいいのに(ぼかっ<たま
玉:いたいよー
玉:きぬがぶったよー
フカ:玉っ!おだまりっっ!
フカ:げしっ
玉:ふかがけったよー
きぬ:魔物がなんとかして犯そうとかしちゃって、一生懸命狙ってるのに
きぬ:全然気付かないサンジと、無表情で「しょうがねえな」って魔物をぺっぺと払っているゾロ
きぬ:いいわぁ
フカ:いいねぇ
玉:当然三本の刀は間を払うグッズにはやがわりですね
きぬ:間を払ってどうするんだよ(どごん!
きぬ:魔を払えよ!(どがん!
玉:魔だよー
玉:魔ー
玉:ちょっとした誤変換に優しくない人たちー
フカ:でも実は、きぬこってさ
フカ:保健室に出て来た
フカ:天井に住み着く黒いもの、の正体だよね
玉:まっくろくろすけ?
フカ:まっくろくろすけ
きぬ:出ておいで〜♪
きぬ:出ないとカメラで撮りまくり〜♪
きぬ:きゃきゃ
きぬ:魔物でーす
玉:とりまくるんだ
玉:そんなシャッター小僧なまっくろくろすけなんだ
きぬ:ほんとに愛すべき魔物たちだわ
フカ:ベッドに這い上がる黒い枝とかさ
フカ:全部きぬこの分身なんだ
玉:え
玉:それもきぬさんの正体?
きぬ:そだよ
フカ:認めるところが潔いよな
きぬ:たまは蹴られて泣いてる生首だな
玉:私さ、
玉:蹴られてる生首のところ
玉:ふつーはなんかこう、もうちょっと
玉:怪奇ちっとなの想像しなきゃいけなかったと思うんだけどさ
玉:私、千と千尋の、
玉:ゆばーばのとこにいた
フカ:あーーー大根仙人
玉:だるまおとしみたいなやつ
玉:アレを想像しちゃってさ
フカ:はいはい。ぼよんぼよんぼよん、って音がするやつね
きぬ:ぼよん
玉:そうそう
きぬ:おいっおいっ、て動く奴ら
玉:ぼよーんぼよーんぼよーん
きぬ:日本古来のあやかしってさ、かわいいんだよね、どっか
きぬ:フカさんは、階段にいる巨大蜘蛛だ
フカ:蜘蛛、いいじゃない蜘蛛。
きぬ:いいんだ…<蜘蛛
フカ:一昨年の夏、庭に腹が3センチくらいある鬼蜘蛛飼っててさ
フカ:餌やり、楽しかったなー
きぬ:…やめろ
玉:蜘蛛
きぬ:…やめてくれ…
玉:やめてぇー
きぬ:飼うなよ、そんなもん…(涙目
フカ:あら。ダメ?
フカ:いくらでもあるわよ。そんなん
きぬ:いやああああああああああああ
きぬ:フカさんがいやあああああああああああああ
玉:うちによく手のひらサイズの蜘蛛出るよ
きぬ:ひいいいいいいいいいいいいいいい
フカ:ふわふわしてんだよね。あれの腹は。
玉:でかすぎて足音するんだよ
フカ:手触りいいんだよ。結構。
玉:かたかたって
きぬ:こいつら、学校の魔物並にこええええええええええええよおおおお
玉:ゴキブリ食うんだよ
フカ:益虫よ。益虫。蜘蛛は。
きぬ:
黙らないと泣くぞ