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GO GO HEAVEN!









「よお!久しぶりだな、チョッパー!」
ルフィが懐かしい顔で笑った。







ふわふわと、暗く温かい中有の空間を漂っていたら、すとんと身体が落下した。何もない空間を引き寄せられるように落ちていく。
いつしか、ごつごつした岩が足の裏をくすぐっていることに気づいた。
チョッパーは帽子を確認するために、頭へと手を置いた。
大丈夫だ。大切なものはちゃんとある。
薄暗い景色にようやく眼が慣れてくると、微かに流れる水音と共に、広大な河の流れが見えた。
夜の海のような漆黒の河。
その岸辺に、ぽう、と小さな灯りが見える。誘われるように、その光へと足を向けた。
船だ。
舳先にまあるく白い羊がいる。
大きく張った帆に、麦藁帽子の海賊旗が掲げられていた。









「ルフィは?」
サンジが訊ねた。
「また外でしょ?」
「チョッパーか?医者っちゃずいぶん長生きするんだな」
メリー号の小さなキッチンで、いつものように咥え煙草、黒いスーツ姿のままサンジが皆に紅茶をいれた。カンヤム・カンニャムだ。芳醇な香りのする紅茶である。
「そんだけ人の役に立ってるからだろ。かと思えば、てめぇみてぇにとっととくたばっちまう奴もいる。世の中うまくできてるもんだ」
椅子に浅く腰掛けたままゾロが口を挟んだ。サンジの眉がピクッと上がる。
「まさか俺が役立たずだっていいてぇのか?」
「いや、そこまではいってねぇ。思っても口にしねぇ」
「嫌味もたいがいにしろ!こちとら好きで早死にしたんじゃねぇんだ!本来ならばナミさんやロビンちゃんとラブラブになって、つうか世界中のレディとウハウハの薔薇色人生を送る予定だったのによ、あんなところで……、実に不本意だ!!」
早死にしなくたってそれは無理だと心でツッコミをいれ、ウソップが二人を止めた。せっかくの淹れたて紅茶がまずくなりそうだからだ。
「まあまあもういいじゃねぇか。済んじまったことをとやかく言ってもはじまらねぇ」
「あれ?てめぇは長生きしたんじゃなかったか?何で俺だけがって気になんぞ、クソッタレが!」
「ルフィがいんだろ。いつまでもゴチャゴチャうるせぇな」
「バカ抜かせ!てめぇが先にイチャモンつけたんだろうが!剣士の方がよっぽど役に立たねぇくせに!誰が役立たずだってんだ!」
「マジでうるせぇ!ならば教えてやる!てめぇだ、てめぇ!そんな役立たずは世界中探してもてめぇしかいねぇ!」
「ざけんな!!どの口でそんな図々しいことを!」
いがみ合うゾロとサンジに、
「うるさいっ!アンタ達すっごくうるさいっ!耳障りな上に目障りだから夫婦喧嘩は他所でやって!」
ナミが怒鳴った。よほど煩かったとみえる。
「夫婦?誰のことだそりゃ?」
「…ナ…ミさん?ふ、夫婦じゃ…ないっす…よ…?」
「そお?」
「……だってだって、だってナミさんがあんなクソゴムとけっ、けっ、けっ、けけけっ……」
結婚さえしなければ、そうサンジは言いたいらしいが、口が拒絶反応をおこした。死んだ今でも認めたくないらしい。
いくらナミと相思相愛にならなくたって、男を選ぶこたァないだろう。しかも、あんなに仲が悪い男と。天下無類の女好きじゃなかったんか?ウソップがまた心でツッコミを入れた。
たとえいつもの喧嘩であっても、そういう関係だと思えばイチャついてるようにしか見えない。だがそれは仲間内では立派な鬼門であり、触れればとんだとばっちりがくる。ウソップは話をそらした。
「サンジよ。長生きすりゃいいってモンでもねぇ。お前のことはずっと俺の心に残ってたぞ。『アレでもいいヤツだった』なんてうっかり勘違いするくらい、思い出が美化されちまった。なんにせよ、若くして死ぬのも悪かねぇと思うが。まァ、結果論だがな」
ウソップは腕組みして大きく頷いた。

ウソップ。享年69歳。
サンジにああは言ったものの、振り返ればなかなか悪くない人生だったと思う。
様々な冒険の末に海の戦士として役割を終え、そして30歳の時に小さな店を構えた。美人の嫁さんに嫁さん似の可愛い子供、商売もそれなりに繁盛して、最後に酔っ払ってドブにさえはまらなければ満点人生だ。

「ケッ、何がいい思い出だ。てめぇは別嬪で頭がいい嫁さんをもらったんだって?聞いたぞ、このヤロー。けったくそ悪ィ」
続いてサンジはゾロに訊ねた。
「そういや、てめぇは結婚したんか?」
自分の死後にゾロが所帯を持っていたとしても、なんの不思議はないだろう。元々そっちの趣味があったわけでもなさそうだし、このウソップでさえ普通に結婚したくらいだ。ただ、気になるとすればその相手だ。自分が知ってる人物だろうか。
ゾロが眉をピクッと上げた。
「結婚?そんなめんどくせぇこと誰がするか。束縛されんのはまっぴらだ」
面倒そうに返事をすると、
「…可哀想に…。てめぇはレディのよさを知らずに死んじまったんか……」
ダイケンゴーのくせに。なんて馬鹿なんだ。そういってサンジがケケケッと笑った。もしかすると嬉しかったのだろうか、ケケケケケケケケーーと笑いがやけに長かった。
「うるせぇな!ほっとけ!」
どうせ女に縁がなかったんだろうと、ふふんと鼻で笑うサンジにナミがニヤリと笑いかけた。
「そういう訳でもないと思うけど、サンジくん?」
「へ?実はもてたとか?」
「というか、サンジくんは自分が死んだあとは知らないでしょ?」

サンジ。享年27歳。
敵の放った凶弾が背後から心臓を貫き、若くして人生を閉じた。オールブルーを見つけた5年後のことだった。
もちろん自分が死んだあとのことなど知る由もなく、当然ながら興味はないこともない。

「ナミさん、俺のとき泣いてくれた?」
何を期待してか、サンジの目がハートだ。
「もちろん。ロビンやチョッパー、ウソップやフランキー、皆して泣いたし、とてもとても悲しかったわ」
「…ああ、泣かせちゃってごめんよナミさん…」
といいつつ、ピンク色のハートが舞い散る。
「……あんときゃ、すっげえ辛かったよな…。その1年前にルフィが死んだばっかだったしな、虚脱感つうか、かなりダメージ受けちまった……」
ウソップが昔を思い出すように、遠い眼をしてつぶやいた。

モンキー・D・ルフィ。享年24歳。
疲労したゴムのように戦闘のあと突然倒れ、その穏やかな表情に、仲間は世界が一瞬停止したかのような衝撃を受けた。
あまりにも若すぎる海賊王の死は世界中に流れ、海軍と海賊の均衡が崩れ、『大海賊時代』もいわれたあの時代の、終焉の幕開けとなったのである。

「…そっか、皆で泣いてくれたんだな………でも、ひとりだけ抜けてるような。予想どおりではあるが」
「ん?ゾロのこと?」
ガタッと椅子が倒れる音がして、ゾロが立ち上がった。物騒な表情でナミを睨む。
「…おい、ナミ。余計なことはいうんじゃねぇぞ」
「何かしら、余計なことって。あまりにも昔のことで思い出せないけど」
「なら思い出すな!いつも余計なことばっかいいやがって!」
ゾロが怒鳴ると、ナミはぽんと手を打ち、ニッと笑った。
「あ、思い出した。包丁のこととか」
「包丁?」
サンジが不思議そうに訊ねる。すると、
「…くっ。思い出させるなよ、ナミ。俺ァ、あんときも涙が出たぜ…」
思い出すだけでダメだと、目尻にうかぶ涙をウソップが袖で拭い、そしてまたゾロが怒鳴った。
「待て、ウソップ!いいか、絶対にそれ以上いうんじゃねぇぞ!」
「うっせえな!てめぇは少し黙ってろ!で、なんだ、包丁って?」
「ゾロが見つけたのよね」
「ほんの僅かな錆びだったんだがな……。いい話じゃねぇか。そんなに怒んなよ、ゾロ…」
「俺の包丁か?」
「そうよ。そしたらゾロが」
「待て!」
「うるせえ!」
「…俺ァ、形見だからそのままにしておこうって言ったんだが…」
「そうだったわ」
「それをゾロが…ひとりで……大事そうに…砥石で…」
くっ、と、またウソップが俯いて涙した。
「愛ね」
「ナミ!ブチ殺すぞ、てめぇーーーーーー!」

「無理。もう死んでるもん」

ナミ。享年38歳。
流行り病に倒れ、間に合わなかったチョッパーは地が割れんばかりに泣いた。死後、数十億の遺産が見つかったとき、その眩いばかりの黄金とお宝の山に皆の顎が地面まで落ちた。
『実業家として成功したのは知っていたが、こんなに溜め込んでたのか……?ナミよ…、死んだら金は持ってけねぇぞ…。それに、いくらタダだからってチョッパー待ってねぇで別の医者を呼べばよかったのに……』



「……もういい。それ以上聞きたくねぇ…」
サンジが居た堪れずに、皆から顔をそむけた。
愛しい航海士の口から『愛だ』といわれ、青ざめていいのか、または赤くなっていいものか判断に迷う。
「ナミさん、誤解しねぇでくれよな。そんなのねぇって。だってコイツとここで再会したとき、いきなり俺のこと殴りやがったんだぜ。しかもグーで」
「久しぶりで照れ臭かったからじゃないの?」
「俺だって蹴られたぞ!ナミ、いらんことばっか言うんじゃねえ!」
ゾロがまた怒鳴ると、
「あ、もうひとつ思い出しちゃった」
ぺろりと、小さく可愛い舌を出した。

ゾロの不機嫌は頂点に達している。
「チッ」
舌打ちしてサンジを睨むと、
「てめぇが断りもなく勝手に死ぬからだ!俺より先に死にやがって!」
サンジは倍にしてゾロを睨み返した。
「黙れ馬鹿!!てめぇに断りいれる義理なんざどこにもねぇ!しかも何だ、その俺より先に云々っちゃ?てめぇはいつから俺の旦那になりやがった!つうか、ナミさんの前でそんなうすら寒いことをいうんじゃねぇってば!!」

ロロノア・ゾロ。享年34歳。
大剣豪。剣士として世界の頂点を極めた男。酒がとても強かった。だが、身体は鋼の如く鍛えられても内臓までは無理だったようだ。死因は肝硬変だ。
チョッパーがまた号泣した。










「……昔のまんまだ」
チョッパーが大粒の涙をぼろぼろと零す。
メリー号の小さなキッチンにいるのは初期メンバーである。その当時の仲間が、そのままの姿で昔と同じようにそこにいた。
「みんなで俺のことを待っててくれたのか?」
長い間待たせて悪かったと、またチョッパーが泣く。年をとって涙もろくなったらしいが、見た目はあの当時と同じ15歳のままだ。

トニー・トニー・チョッパー。享年98歳。
名医として、トナカイで初めて名を残した。同時に数々のボランティア活動が認められ、勲章を受章したこともある。
死因は賞味期限がかなり過ぎたケーキだった。要するに食中毒だ。
「味がヘンだと思わなかったのですか?」、病床で部下からの問いかけに、
「そんな味なんだろうと思った」、そう答え、
「ケーキに罪はない」これが臨終の言葉だ。彼は死ぬまで甘いものを愛していた。

「俺ァ最初の頃からいるが、そんな長い時間が経った気はしねぇ。時間の感覚がねぇんだよな、此処ってさ。うまく説明できねぇけど」
サンジがチョッパーにも紅茶をいれた。
ほら、と手渡され、大粒の涙が温かい紅茶にぼとぼと落ちて、「しょっぱいや」と泣きながら笑った。
懐かしそうに、しみじみと皆の顔をみて、そして小さく首を傾げた。
「あれ?ロビンはいないのか?」
「誘ったんだがな。母ちゃんやオハラの皆のとこに行くってさ」
「フランキーは?」
「トム爺さんやアイスバーグが待ってるからって断られた」
というよりも、二人には逃げられたと、ルフィは骨付き肉を齧ったまま答えた。
「ほらよ」と、サンジがまた肉山盛りの皿を出すとルフィの眼が輝く。
「…ったく。俺だってクソジジイやバラティエのヤツらが待ってんのに、コイツに強引に引き止められちまった。それよりもお前、死んでもその食欲だけは衰えねぇのか?」
三途の川を渡る手前でサンジはルフィに捉まった。しかも半端なくしつこい。向こうに逝きたくなる本能を我慢してまで留まったのは、しつこい勧誘からではない。自分が逝けばこの寂しい場所にルフィとメリーだけが残されるからだ。
船長はひとりでずっと待っている。

「私だってベルメールさんやノジコが待ってるのに……」
ナミが不満そうに口を尖らせた。
「川のところでさ、ナミが渡し守となんか話してんのが聞こえた。『六文じゃぼったくりだ』とか『二文にまけろ』とか。それよりアンタ、死んだ人間から金取る気?いくらなんでも強欲過ぎない?タダで乗せなさいよ。ケチね。いい死に方しな……いいいいいでぇ…」
「人のプライベートをべらべら喋ってんじゃないわよ!」
ナミは賽の河原で渡し守と金の交渉中、ルフィに声をかけられた。
『よお、ナミ。メリーならタダだぞ』

「俺ァ、びっくりしたぜ!こんな場所でメリーを見つけてよ!で、嬉しくてうっかり中に入っちまったらそのままだ。俺だって愛するカヤが待ってんのに……」
ウソップはほぼ半泣き状態である。

「ゾロは簡単だったぞ。ずっとうろうろ迷子になって歩き回ってたかんな。しかし、お前のソレ、死んでも直んねぇんだな?」
ルフィがゲラゲラ笑って、ゾロのこめかみがぴくぴく痙攣した。
「チョッパーだってDrヒルルクやくれはさんに、まっすぐに会いにいきたかったんじゃないの?」
ナミが訊ねると、
「うん。俺が医者としてここまでこられたのはドクターのおかげだから、会ったら真っ先に御礼をいいたいよ。でもドクトリーヌはまだ元気だぞ」
それを聞いた皆の目が点になった。
「え?」
「嘘?」
「まだ生きてやがんのか、あの婆さんは?」
「今、何歳だ?数えるのすら恐ろしいが…」
「若さの秘訣って何だったのかしら?今更だけど、すごく気になるわ…」
ナミが小さく呟いた。


サンジがまだ肉を食っているルフィに訊ねた。
「おい。まさかてめぇんちの爺さんもまだ生きてるとかねぇよな?」
「爺ちゃん?いんや」
ルフィがいうには、此処で祖父とあったらしい。
爺さん曰く、
『煎餅を喉に詰まらせちまってな。お茶は大切だとわしゃ身を持って知ったぞ。煎餅といえど良く噛んだほうがいい。苦しいのなんの、一度に食いすぎたかもしれん。お前も気をつけたほうがいい。ん?あれ?そういや、お前は爺ちゃんを残してさっさと死んじまったんじゃなかったか?思い出したぞ、この爺不孝モノめが!』
そういってルフィを殴り、
『済んじまったことはともかく、ここであったからには、向こう岸に着くまでとくと話を………』
長引きそうな話を振り切って逃げたのであった。


「嬉しかったんだよな、俺」
ルフィが椅子をゆらゆら揺らし、
「メリーに会えてさ。こんな暗くて寂しい場所で、ずっとここで俺たちを待っててくれたんかと思って」
しししと、満面の笑みを浮かべ、それは嬉しそうな顔で笑った。昔のままの笑い顔だ。





甲板に出ると、そこから見えるのは何処までも暗く広大な河だ。
ゆったりと静かな流れである。
「メリーが私たちを向こう岸に運んでくれるのね…」
遠く向こう岸には、夜明けよりも微かな光が見える。
そんなわずかな光が温かく、何故か胸が締め付けられる思いだ。
「ベルメールさんたちに会えるかしら…」
冥界の風がオレンジ色の髪をなびかせ、それを指先ですくって呟くナミに、
「大丈夫だ。いつか会えるって。なァ、それよりも、この河ってなんかワクワクしねぇか?海みてぇに広いしさ」
河の流れを眼で追いながら、ルフィがまた笑った。

「ワクワク?」
「なんで、ワクワク?」
「どうして、ワクワク?」
「何考えてんだ、てめぇは…?」

「この流れのずっと先を見たいと思わねぇか?きっとすんげえ冒険が待ってんぞ!」
眼がきらきらと星のように輝いた。

「……マジ?」
「……なんでそんなに楽しそうなんだ?」
その時、船がぐらりと後方に傾き、反動でゆらゆら揺れながら、振り子のようにゆっくりと元に戻った。

「ほら。メリーだって頷いてる。コイツも賛成だって」
「違ああああう!」
「頷いてねえ!」
「仰け反ったんだ!」

それでもルフィの眼は輝き、真っ暗で辿り着く先が解からない未知の世界を見つめている。

「……無茶だわ。三途の川を下るなんて、生きて帰れるかしら…」
「……いまさら生きて帰るのは無理だが、成仏できる気がしねぇ…」
そうガックリと肩を落とすナミとウソップに、
「俺はかまわねぇ。どうせもう死んでるしな」
ゾロがそういうなり鰐口をチャキッと鳴らし、不敵にもニッと笑った。
「どんなのが出てくるかと思うと、腕が鳴る」
それを聞いたルフィは、拳を掌に打ち付けた。パンと、大きな音がする。
「よっしゃ!ゾロがそのつもりなら、サンジもOKだな。ナミは問題ねぇとして、チョッパーは付いてきてもらわなきゃ困んだろ。怪我した時のためにな。となると、後はウソップだけだ。なァ、一緒にくるよな、お前もさ」
それを聞いて、
「待て!なんでそうなる?寝ぼけたこといってんじゃねえぞ、クソゴムが!」
サンジが怒鳴り、
「ちょっと!なんで私は問題ないわけ?せめて訊いてからにしなさいよ!」
ナミが喚き、
「……怪…我するのか?……死んでるのに?」
チョッパーが唖然とした顔で、
「え?決まってないの俺だけ?いつの間に?嫌だっていったらまた置いてきぼり?アレ、俺のトラウマなんだぞ?」
ウソップの顎がガクンと落ちた。



「三途の川とかステュクス、さまざまな呼び名があるけど死の河だわ。その河を下るだなんて………。ベルメールさん、また死んだらごめん…」
「レテは忘却の河とも言われてるよな。もしもそこに行ったら全部忘れちまうんか?つうか、そんなとこ、船で下った奴いんのかよ………。クソが、ジジイに土産話なんかいんねぇのに…」
「この先はどうなってるんですかって、渡し守に訊いてみっか?知ってるとは思えねえけど……。ああ、カヤが遠ざかっていく…」
「……なァ。もしや地獄だったらどうすんだ?俺、怖ぇえよ……ドクター…」
チョッパーの眼から、再会の喜びとは違った涙がぽろりと零れ出た。
「地獄じゃねえと思う。強いていうなら、ここが地獄だ。だって、ナミがここにい…」
サンジの足が空気を切り裂いてゾロの脇腹を掠った。
「ボケエエエーーーー!ナミさんがいるところは天国に決まってんだろがあ!」
天使のいる場所が天国だと、サンジの眼からひらひらとハートが舞いあがる。
「あぶねぇな、てめぇは!まともに当たったら死んでたって痛てぇぞ、コンチクショー!」
「うっせえやあああ!てめぇの所為で俺ァずっと居た堪れない思いをさせられてんだ!蹴りの1発くれぇ貰っとけ!」
「うるさいっ!」、またナミが怒鳴り、そしてルフィが高らかに笑った。

「天国だろうが地獄だろうが、どっちだっていいじゃねえか。仲間が一緒なんだ」


「願望を込めて天国に1票」
ナミが挙手した。
「俺も天国だ」
「んなのはどっちでもいい」
「…俺ァ、大穴で地獄に1票…」
「相変わらずネガティブだな、ウソップは…」






「出発するか!」

麦藁帽子に手を置き、ルフィがメリーの頭の上に飛び乗った。

「また頼むぞ」

ぽんぽんと叩くと、

「まだ流れが掴めないから、少し惰性で進むわ」

「おい!錨を揚げろ!」

「チョッパー、舵を取れ!」

メリーが舳先をゆっくりと変えた。
暗く長い河に漕ぎ出す船を、微かな光が優しく照らす。



「んじゃあ、行くぞ!」














END



※怒っちゃダメです!苦情はもってのほか!「ありえねーーー!」と、大人の余裕で笑い飛ばして下さることを切に希望します!
 『黄泉比良坂』のオールキャラバージョンです。
 これでも10万打御礼です…よ……?ちゃんとありますよ?たんまりと感謝の気持ち……。少しでも汲み取っていただけますと幸い…。


2007/10.31
2010/07.15 部分改稿