妻を愉しむ









「…も、出ねえ……」

もう何も出ないと、サンジが掠れ声で呟いた。
「別に出さなくたって、まだイけんだろ?」
ゾロが片足をもちあげて自分の肩に担くと挿入角度が変わったのか、またサンジが小さく悲鳴をあげた。








ドライは辛い、出さずに達するのは気持ちいいけどキツイと、サンジが前に言ったのをゾロは覚えている。ついうっかりヤり過ぎてしまった結婚前の話だ。
それからそういうことはしていない。正確にはサンジがさせてくれない。
結婚とはある種の契約だとゾロは考えている。違反したものには赤キップ、たとえ疑惑でもイエローカードだ。
風俗は男の遊び。金銭を媒体とした自分の行為と、サンジのした行為は決定的に違うはずだ。ましてや、相手はあのエースである。ルフィの兄のくせして意外と礼儀正しく、そして男気と色気がある奴に女のみならず男までもが簡単になびく。
どこの女や男、たとえ子供や年寄りがヤツとそういう関係になっても全然気にならないが、自分の妻となればそうはいかない。
よりにもよって男と、しかもあのエースと浮気しやがった。
それがゾロは面白くない。女でも許せないのに、男ならなおさらだろう。
結婚直前の話だが、ゾロはサンジにいわれたことがある。
「てめぇが浮気したら俺もするからな。可愛くってよお、おっぱいがど〜んとでかいお姉さまと。そりゃあもう、めくるめく愛の一夜をな」
そういった後、
「と、いいてぇところだが野郎と浮気してやる。気は進まねえけどな、その方がてめぇも嫌な気分だろ?」
意地の悪い顔で笑い、そしてゾロのピアスを舌と唇で弄びながら、その耳元でサンジがささやいた。
「俺に飽きたなんて、一生言わせねえから」








「おい、もっとケツを上げろ」
ゾロがサンジの尻をピシリと叩くと、
「…なァ、もう…これ、解けよ…」
後ろ手に縛られた腕が痛いとサンジがゾロを睨みつけた。
赤い顔で少し眼を潤ませながら、それでも強気な視線だけは崩さないのが癪に障る。
「解いてやってもいいぜ。本当のことを言えばな」
すると生意気にもふいと顔をそむけた。
角度を変えて、浅めにぐっと突き上げると今度は「うっ」と呻く。
「…っ。そこばっか…突きやがって…」
「好きじゃねえかよ、ここ。感じるくせに」
「乱暴なんだよ、てめぇは…もっと、やさしくできねえのか…」
「エースのように?」
サンジの顎をくいと持ち上げてまた問うと、
「…そうだ。熱く、やさしく、情熱的にな…」
ぬけぬけとそう答えた口にタオルを押し込んで、ゾロはまたそこを突いた。
塞がれた隙間から呻き声が絶え間なく洩れる。
嫌がるように首を何度も振りながら、白い喉を反らしてゾロの動きと共にサンジの身体が痙攣をはじめた。






「…ゾロ…ゾロ」
サンジが肩で息をしながら苦しそうにゾロを呼ぶ。いつの間にか押し込んだタオルが外れたらしい。唾液で濡れた口元がひどく淫らだ。
「…解いてくれよ。なァ…すっげ辛れぇ…。もういいじゃねえか…、俺がお前にベタ惚れなのは知ってんだろ…」
流れ落ちた汗か、それとも余程苦しいのか目尻から透明の液体がつうと零れ、それを見ながらゾロがまた腰を動かした。
「…奴ァ、ここまで届いたか?」
奥の奥まで突くとまるで嫌々するように頭を左右に振り、金色の髪が汗で額に張り付いている。濡れた髪を指ですくい、
「こんなに何回もイかせてもらったかよ?」
のけぞる白い喉元を噛み付くように愛撫すると大きく身体が震える。
「奴のキスは甘かったか?」
唾液に濡れる口から舌を吸い上げ、
「お前のここがこんなに感じるのも奴に教えたのか?」
赤く尖った肉芽を強くぎゅっと押し潰すと、サンジが胸を反らして甲高い嬌声をあげた。





「も…うしねぇから…」
俺もお前に触れたい、さわりたいと、何回もうわ言のようにつぶやくサンジの顎は小さく震えている。くいと持ち上げ、
「おい、どこまでやった?」
訊くが、ふるふると頭を小さく振るばかりだ。
「キスか?」、「本当に最後までヤツとやったのか?」、何度問うても、何を訊いても首を左右に振る。
「もうしないから」と、何度も金色の頭を振り、「何を?何をしないんだ?何をした?」問いただしても、「本当にしない、だからてめぇもするな」と、ぽろぽろぽろぽろ涙が零れ落ちたのを見て、最後にゾロは小さな溜息をついた。
後ろ手に縛った戒めを解くと、細い両手首は擦れて赤く血が滲んでいた。それを気にするでもなくサンジが白い腕をゾロの首に絡め、ぎゅうと抱きついてきたのを、ゾロは深い溜息混じりの息を吐きだし、そして受け止める。












東の空が明るくなるにつれ、朝靄が白くうっすらと街並みを覆う。
鳥が目覚め、囀りながら団地にある樹木の細い枝を揺らした。

サンジが起き上がって朝食の準備に取り掛かった。
だし汁と味噌の匂いが部屋に立ち込める中、ベッドで寝こけている男に声をかける。
「おい、起きてさっさと顔でも洗ったらどうだ?」
返事がないのをみると、
「…このまま熱い味噌汁を頭から飲ませてやろうか?炊き立ての飯と一緒がいいよな?」
そしてゾロは重そうにゆっくりと瞼を持ち上げた。





「立ったまま寝こけてんじゃねえぞ。こんなんで会社まで辿り着けんのかよ?」
朝食後、サンジはゾロのネクタイを結んだ。
朝方近くまで続いた情交のおかげでふたりは殆ど睡眠をとっていない。中途半端に少しだけ寝た所為かゾロは眠くて仕方ないようだ。されるがままで、立っているのか寝てるのかわからない状態である。

「ほら。もっと顎をあげろ」
サンジの言葉にゾロの顎がのろのろと上がった。
「今日は会議のある日だろ?こんなんで大丈夫か?この前も居眠りこいて部長に睨まれたんだろうが」
会議といわれ、ゾロは思い出した。
今日は朝からずっと会議の予定が入っている。あれはおそろしく意味がない時間だ。自分みたいなペーペーが会議に出ても『さあどうぞ。たんまり寝てください』といわんばかりではないか。部長のズラの乗った頭とか、課長の脂ぎった顔なんか見たくなくて、手元の書類に視線を落とせばあっという間に文字が霞んで気が遠くなるのは仕方ない。

「今度は厳重注意くらいじゃ済まされないんじゃねえの?もしかするとクビとか?」
確かにその可能性はある。普通でも眠くなるのにましてやこの状態では起きていられる自信はなく、もう一度やれば冗談じゃなく解雇されるかもしれない。
ふと、何故かサンジが嬉しそうな顔をしてるのにゾロは気づいた。ネクタイを慣れた手つきでいじりながらニマニマと、
「そしたらさ、いや、クビになったらだけどさ。今度はてめぇが『奥さん』やってみる?俺ももう少ししたら職場に復帰するし」
寝不足とは思えないくらい楽しそうな顔で、
「俺がお前を養ってもいいけど?なァ、交替しねえ?」
そしてタイをきゅっと絞り上げて、
「愛してんぜ、ハニィ。幸せにしてやるからな」
会社で存分に寝てこい、とゾロの唇に啄ばむようなキスをした。





確かに飽きない男だ。
昨夜、泣きながらアレだけの媚態を曝け出して、それでもこんなとんでもないことを平気で口にする。
いっそ大笑いしたいくらいだがゾロは我慢した。説明するのも面倒だし、こんなところに体力を使ってる場合じゃない。
「いや、心配しなくても大丈夫だ。太腿を血が滲むくらい抓っても起きててやる。俺はダンナが欲しくて結婚したわけじゃねえからな」
「『団地妻』も悪くねえけど?3食昼寝、おまけに昼下がりの情事つきだ」
ニヤニヤとサンジが笑う。
不審な要素をたぶんに残してサンジが笑う。
「その話はまた後だ。それよりも、今日は昼寝でもして身体を休ませておけ」
ゾロは書類の入ったカバンを手に、出勤の準備に取り掛かった。
「何で?」
「誕生日だろ?出来るだけ早く帰るから。先に風呂入って待ってろ」
「風呂?言われなくても入るけど」
「あ、やっぱ入らないでいい。体臭もこれまたいいもんだ」
「…てめぇ、何を考えてやがる…」
「俺が帰りにドラッグストアに寄ってくるから。夕べで使い切っちまったしな。あれ?おめぇの好きなアレはアダルトショップじゃなきゃ売ってねえんだったか?ちっと遠回りだが仕方ねえ」
「おい!余計なモン、買ってくるんじゃねえよ!」
「ホットローションだろ?1ダースくらい買ってきてやる」
「今日はもうやんねえぞ、こら!ケツが塞がるひまがねえ!」
「昼間はちゃんと閉じてろ。俺の断りもなく余計なモンを突っ込んだら、今度こそ承知しねえからな」
「何だ、余計なもんって?大体さ、てめぇだって無理だろ?疲れて勃たねえだろうがよ?連日連夜そんなにできるわけねえ」
少なくとも俺はそこまで付き合いたくねえとサンジがゾロを睨みつけた。
「いや、大丈夫だ。たとえ半勃ちでもおめぇに挿ればちゃんと完勃ちになる。昼間ヘンな気を起こさないよう、夜のうちに全部搾り取っておかねえとな。しかも誕生日ならなおさらだ」

これで話が終わったとばかりに、玄関に向うゾロの背中にサンジが怒鳴る。
「おい、まだ話が終わってねえぞ!」
額に青筋立てて、頭から湯気を噴出し、真っ赤な顔で怒りながら、
「どーしてもヤるってなら、実家に帰らせてもらうからな。ジジイにチクるぞ、『うちのダンナが激しすぎて夜寝かせてくれないんだけど、どーしたらいい?』って、クソが!んなこと口が裂けても言えるか!これ以上ジジイの寿命を短くしてどうする?んなことより、おい、聞いてんのかよ、マリモ。絶対にやんねえから、よおおおく覚えとけっ!」
「爺さんには俺からもよろしくって言っとけ。お前も夜までには帰ってこい」
風呂は入らなくていいからケツだけ洗っとけな。面倒なら俺が帰ってから洗ってやると、ゾロが言い残してゆっくりと扉が閉まった。
「ふ、ふ、ふざけんな、てめ…」

閉まった金属の扉が室内から轟音と共に大きく蹴られ、その音を聞きながらゾロはエレベーターへと向かう。





大きな団地がいっせいに目覚めた。
様々な生活の音と匂いと人々の群れ、足早に駅に向かいながらゾロは考える。

なんだかんだといろいろあったが、結婚してよかった。
飯が美味くて床上手。ひねくれもので口が悪く、生意気で気が強いのが欠点だが、それでも一緒にいて退屈しない男だ。


やはりうちの妻は愉しいと、ゾロは駅の階段を2段飛びで大きく駆け上がりながら思うのであった。















おしまい






またまた、うれし恥ずかしありがたやのコメントを頂戴しました♪


オマケ座談会
S:一行目のセリフで出ちゃいました。(何が)
C:この二人すご〜い好きvv特にエロがーーーっ!(じゅるり)あ〜〜幸せvv
Y:うわー、私も好きですこの二人!素敵だー。
S:ああーもう好きだー好きだよーエロいわ男だわカッコイイわかわいいわ。あと、何だ?何を付け加えればこの想いを表現できる?うおー文字書き様の能力を分けて欲しいっその為だけに!
N:こんな素敵な痴態を晒すサンちゃんに激しく妄想かきたてられました!!うおー!ゾロの言葉攻めにも耐えるサンちゃんっ・・・モエモエで私の頭の中は大変なんですけどどうしましょう。
Y:そうか、まだ口を割らぬかこの強情な奥さんは…!旦那もイジメ甲斐があるってもんです。
MA:こんな気の強いサンジを妻に出来たなんて、さすがゾロです(笑)
T:で、A兄さんとはどーなったの?すっげー気になるんですけど。
H:やっぱり、どうして、D兄ちゃんの所業がわからない、なぞのままなの?秘密にしておくの?ああ、気になる気になる。気になって眠れない。でもサンジはずっと秘密にしてればいい!秘密のまま旦那の嫉妬心あおればいい。
MA:強情ぱりなのに、身体は従順、よーく仕込まれてるんだと思ったら堪りませんねvv
MI:実家に帰ってジジイに訴えるサンジを想像したら余計萌えました。狩野さんちのサンジがってとこに萌え♪
Y:こんな良くできた妻を愉しめるゾロにジェラスィー!
MI:ちょっと遠回りしてアダルトショップに寄って帰るゾロ!!(←ツボに入ったらしい)
Y:私、ホットローションの存在を、狩野さんのお話で初めて知りました。うふv
H:狩野さん、ゾロのお買い物セットの中には是非玉玉ビーズのあれもvv
Y:たまにちょっと労わってあげると、また違った反応がありそうでいいと思うよゾロ
N:秘密って興奮の材料なんですね・・・!狩野さん、ごちそうさまでしたーvv
S:狩野さん本当にご馳走様です。おかわりはありますか(ああ、またCさんにぶたれる/笑汗)
MI:ゾロ、ますます頑張れ。もう会社なんてどうでもいいからv





La paixさま2007サン誕企画 『団地妻』 提出物。